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5G 人からモノへ 〜「未踏の時代」迎えた無線技術 特集

5Gは屋内通信が課題に、各社が製品開発を急ぐ特にミリ波は難しい(1/2 ページ)

頻繁に引用されている統計によると、携帯電話機からの通話およびデータトラフィック全体の約80%が、自宅や商用ビルなどの屋内からアクセスされているという。しかしこうした状況は、通信事業者が5G(第5世代移動通信)ネットワークの導入に力を入れていく中で、変化していく可能性がある。

» 2020年12月09日 11時30分 公開
[John WalkoEE Times]

セルラートラフィックの大半は屋内使用

 頻繁に引用されている統計によると、携帯電話機からの通話およびデータトラフィック全体の約80%が、自宅や商用ビルなどの屋内からアクセスされているという。しかしこうした状況は、通信事業者が5G(第5世代移動通信)ネットワークの導入に力を入れていく中で、変化していく可能性がある。

 その要因の一つとしては、現行世代の携帯電話機が、音声/データサービスの可能性を最大化することに焦点を当てているという点がある。5Gでは、多くの通信事業者や、そのプライベートネットワークを導入している企業などが、幅広い種類のアプリケーションやユースケースに向けたセルラーネットワークを提供したり使用したりするようになるという、重大な変化が起こるだろう。

 こうした中で最も初期の段階のユースケースとしては、広く議論されているIoT(モノのインターネット)や、IIoT(インダストリアルIoT)のように、農業やヘルスケア、教育、製造などのエンドユーザー部門をサポートする分野が挙げられる。5Gの超低レイテンシ機能を最大限に活用し、さまざまな種類のスペクトルを導入していくとみられる。

 大半の通信事業者は、ローエンドやミッドレンジ、ミリ波(mmWave)周波数などの全てにおいて、屋内で優れた性能を実現するという困難な要望に対応していくために、自社ネットワークのコア層を大幅に変更する必要があるだろう。さらにこの問題を大きくしているのが、高帯域では伝搬特性があまり良くないため、屋内環境における動作が難しいとみられる点だ。

 それでも通信事業者は、屋内ユーザーを無視することはできない。前述したように、結局のところ、セルラートラフィックの大半が今後も屋内で使用されるとみられるためだ。世界の移動通信市場に関する最新の調査報告書「エリクソンモビリティレポート」によると、北米市場だけでも、スマートフォンの1カ月当たりの平均データ使用量は、2019年には約8.5Gバイトだったが、2025年は約45Gバイトにまで増加する見込みだという。

 このような増大する需要の一部はWi-Fi接続にオフロードされるとみられる。だが、Wi-Fi 6/Wi-Fi 6Eなどの最新版Wi-Fiが間もなく登場する予定ではあるものの、5Gセルラーの性能に関する負担はさらに増えていくだろう。

 通信事業者の対応としては、3G/4Gの時よりもアクセスポイント(AP)を増やしてネットワークを高密度化する必要がある。この場合、膨大な運用コストが発生する上、決して利益が保証されるわけでもない。

DASとスモールセル

 5Gの屋内対応には、特にミリ波周波数も含まれているため、アンテナ数がかなり増え、エンタープライズ環境の種類に応じた正確な構成が求められるだろう。

 現在の屋内対応は、主にDAS(Distributed Antenna System)に依存している。このDASが最初に導入されたのは、大規模スタジアムやショッピングモール、空港など、膨大な数のユーザーがスマートフォンを同時に使用するような場所だ。

 このDASが必要とされた背景には、屋外からの電波をこうした施設の隅々まで到達させることが難しいことや、通信事業者がシステムの設置費用を全て負担しなければならなかったことなどが挙げられる。

 DASは基本的に、基地局と、屋内外に設置されたアンテナを光ファイバーで接続するというネットワークである。

 業界は現在、基本的に導入が簡単な小型アンテナ向けの業界標準規格の策定に着手したところだが、スモールセル技術をベースとしたソリューションもいくつか存在する。

 DASとスモールセルソリューションは、同程度の出力とカバレッジ性能を小型のフォームファクタで提供するが、機能の仕方がそれぞれ異なる。DASネットワークは基本的に、遠隔ノードで同時に電波を受信して共有するが、スモールセルは通常、個々が独立して機能する。

 英国の市場調査会社Rethink Researchの共同創設者であり、リサーチディレクターを務めるCaroline Gabriel氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「あらゆる分野において、非常に差し迫った重要課題が生じている。企業は、Wi-Fiに対する出費は惜しまないが、屋内のセルラーカバレッジに対しては、今のところ迅速に対応しようとする様子が全くない。ビジネス分野ではかなり行き詰った状況にある」と述べている。同氏は、Analysis Masonの主任コンサルタントも務めている。

 「通信事業者は、5G屋内ソリューション/サービスを収益化すべく、さまざまなビジネスモデルを検討しているところだ。そこに必要なのは、企業や建物の所有者との間で初期費用を分担するための方法である」(同氏)

 またGabriel氏は「もちろん中には、エンタープライズ分野にかなりの力を注いでいる通信事業者もあるが、業界全体でソリューションを生み出す必要がある。ネットワークプロバイダーは、必要とされる全てのスペクトルを調達するための膨大なコストに加え、オフィスビルや大規模会場、倉庫などのインフラ資金まで負担することはできない」と付け加えた。

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