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» 2020年12月10日 11時30分 公開

湯之上隆のナノフォーカス(33):TSMCとSamsungのEUV争奪戦の行方 〜“逆転劇”はあり得るか? (1/5)

2020年、ASMLのEUV(極端紫外線)露光装置は大ブレークした。この最先端装置をめぐり、争奪戦を繰り広げているのがTSMCとSamsung Electronicsだ。2社の争奪戦の行方について考察した。

[湯之上隆(微細加工研究所),EE Times Japan]

EUV露光装置の供給が追い付かない

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 1997年から本格的な開発が始まった最先端EUV(極端紫外線)露光装置(以下、EUV)は、20年以上の歳月を経て2018年第3四半期頃に離陸し、2019年にTSMCが孔系にEUVを適用した7nm+プロセス(以下、プロセスは省略)による量産に漕ぎつけ、ことし2020年には配線にもEUVを使う5nmによる大量生産が実現している。

 筆者が2007年に初めて参加したリソグラフィの国際学会SPIEでは、EUVの開発があまりにも難しいため、図1のようなスライドを使ってその困難さを説明した発表があった。

図1:2007年2月、リソグラフィの国際学会SPIEにて 出典:EUVの画像はAnthony Yen, ASML, “EUV Lithography and Its Application to Logic and Memory Devices”, VLSI 2020, SC1.5より引用(クリックで拡大)

 銀河系の右端に太陽系があり、その中にわれわれ人類が住んでいる地球がある。ところが、EUVの量産機は、その太陽系から10万光年離れた、はるかかなたにあるため、人類が生存中にそこに到達することは不可能というのである。13年前は、EUVの開発がそれほど困難を極めていたわけだ。

 しかし、人類の英知というのは素晴らしい。世界中のリソグラフィ関係者が知恵を結集して努力を重ね、一つ一つ課題を解決していった。その結果、最も難しい問題といわれていたEUV光源出力の向上にメドがついた2013年頃、EUVは太陽系に接近してきたと関係者から聞いた。さらに、2016年にはEUVが地球の大気圏に突入し、待望のR&D装置がオランダのASMLからリリースされた。

 EUVを唯一供給できるASMLは、2016年に5台、2017年に10台、2018年に18台、2019年に26台と着実に出荷台数を増やしていき、筆者はことし2020年に36台が出荷されると推測している(図2)。しかし、ASMLは先端半導体メーカーの発注台数に応えることができておらず、受注残が増大し続けており、2020年第2四半期には56台になった模様である。

 では、なぜ、これほどの受注残が発生するのか?

図2:ASMLにおけるEUV露光装置の出荷台数と受注残 出典:WikiChip Fuse、ASMLの決算報告書および、一部筆者の予測を基に作成(クリックで拡大)

TSMCとSamsungのEUV争奪戦

 EUVを使って7nm以降の微細化を進めている半導体メーカーは、TSMCとSamsung Electronics(以下、Samsung)の2社に絞られた。この2社からの発注台数が膨大であるため、受注残が膨れ上がっていると考えられる。

 その2社について、筆者は拙著記事『Samsung会長逝去、浮かび上がった半導体業界“3偉人”の意外な共通点』の最後で、TSMCが2021年以降、毎年30台のEUVを要求しているとしたがこれは過小評価だったこと、Samsungの李在鎔(イ、ジェヨン)副会長が2020年10月13日にASMLを電撃訪問して2020年中に9台、2021年以降は毎年20台のEUVを要求したとみられるが、ASMLの生産能力を考えるとこれは不可能だと論じた(図3)。しかし、筆者のこの予測は外れそうである。

図3:半導体メーカー各社のEUV累計保有台数(各社の計画および筆者予測)

 そこで、本稿では、TSMCが毎年何台のEUVを要求しているのか、それはなぜなのかを述べる。次に、2030年までにTSMCに追い付くことを目標としているSamsungのEUV導入戦略について説明する。その上で、ASMLがTSMCとSamsungの要求に応えられるかどうかを論じる。

 結論を先に述べると、TSMCとSamsungの満額回答にはならないものの、ASMLはそれに近いEUV台数を出荷すると推測している。そして今後はこの2社が、3nm以降の微細化を推進していくだろう。

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