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TSMCとSamsungのEUV争奪戦の行方 〜“逆転劇”はあり得るか?湯之上隆のナノフォーカス(33)(5/5 ページ)

» 2020年12月10日 11時30分 公開
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ASMLはこの事態をある程度予測していた

 図13に、ASMLが2018年11月8日の“Investor Day”で、投資家向けに行った2020年のEUVの需要と導入予測を示す。ASMLは、High demandとLow demandの二通りの予測を行っていたが、現実はHigh demandに近い状況となった。

図13:ASMLによる2020年のEUV需要と導入予測 出典:ASMLの投資家向け説明会資料”Business Model and Capital Allocation Strategy ”(2018年11月8日)より抜粋(クリックで拡大)

 ASMLのHigh demand予測では、EUVの需要が35台、導入が33台となっている。これに対して、2020年は、Samsungの滑り込みの4台を加えると40台のEUVが出荷された。要するに、ASMLのHigh demandを上回る需要があったということである。

 さらにASMLは、前掲の投資家向け資料で、2025年のEUVの需要と導入を予測している(図14)。それによると、High demandでは、High NAが9台+55台と予測されている。つまり、合計64台のEUVの需要があるとの予測である。

図14:ASMLによる2025年のEUV需要と導入予測 出典:ASMLの投資家向け説明会資料”Business Model and Capital Allocation Strategy ”(2018年11月8日)より抜粋(クリックで拡大)

 実際は、2021年以降、TSMCとSamsungの合計で約80台のEUVの需要があると考えられる。これに対して、2年前に64台の需要を予測していたわけだから、ASMLにとってみれば、想定内とまでは言わないが、対応可能な需要なのではないだろうか。

 残念ながら、2019年と2020年は“Investor Day”が行われていないため、この2年間にASMLがどのようにEUVの需要と導入の予測を修正したかが分からない。しかし、2018年よりも上方修正された需要に対して、ASMLは、EUVの工期を短縮し、Cabinを増やす計画を立案しているだろう。

ロジック半導体のスケーリングは今後も続く

 ここまでを総括すると、TSMCとSamsungによる約80台のEUVの要求は、すぐに満額回答とはいかないものの、今後数年でこれに近い台数のEUVをASMLが出荷すると推測される。そのすさまじい台数のEUVを使って、3nmも2nmも量産されるに違いない。

 TSMCとSamsungの微細化の競争については、3nmまでは、EUVの成熟度や量産規模で、TSMCが先行すると思われる。しかし、High NAをいち早く導入する予定のSamsungが2nm以降で挽回してくる可能性がある。

 ロジック半導体においては、2020年12月5日8時(日本時間12月6日深夜1時)にオンデマンド形式でチュートリアルが始まった「IEDM2020」で、imecのMyung Hee Na氏が、1nmまでのロジック半導体のロードマップを発表した(図15)。

図15:1nmまでのロジック半導体のスケーリング 出典:Myung Hee Na, imec, “Innovative technology elements to enable CMOS scaling in 3nm and beyond - device architectures, parasitics and materials”, IEDM2020 Tutorials 5(クリックで拡大)

 それによれば、今後もロジック半導体のスケーリングは、2nm、1.4nm、1nm、0.7nmと続く。ムーアの法則は、依然として健在だ。そして、2nm以降の微細化競争では、TSMCとSamsungのどちらが優位に立つのか? あるいはダークホースが現れるのか? EUVとそれを使った微細化に、今後も注目していきたい。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧


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筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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