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日本最高峰のブロックチェーンは、世界最長を誇るあのシステムだった踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(9)ブロックチェーン(3)(2/10 ページ)

» 2020年12月25日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

貨幣が成り立つ、もう一つの条件

 前回、私は、貨幣の成立3要件について説明しました。貨幣とは、以下の3つの要件を満たせば、誰が何をしようとも ―― それこそ、私が前回説明した、江端のオリジナル貨幣「エバコイン」であっても ―― 「貨幣」であると主張しても問題ないのです。

 ところが、(これも、今回Mさんから教えてもらったのですが)貨幣が、いわゆる「貨幣としての機能を発揮する」ためには、もう一つ、その前提が必要なのです。

 暴力装置です。

 「暴力装置」と聞いて、違和感なく受け入れる方は、少数かもしれません(参考:著者のブログ)。

 日本国民は、いかなる状況下であろうとも、法の下、暴力の行使が禁止されております(私闘の禁止)。ところが、そのような禁止が、国家の全ての機能に及ぶと、法の適正な運用が行えない場合があります。そこで、このような場合、法の定めるところ、一定の条件下、一定の主体的適格を有する者に、暴力の行使が許されています

 例えば、警察自衛隊がこれに該当し、これらの適格を有するものによる適法な力の行使を総括して、「暴力装置」といいます。つまり「暴力装置」とは別段悪い意味ではないのです。

 では、なぜ、貨幣の信用に、暴力装置が必要となるのかを、説明します。

 まずは警察力です。

 警察の存在意義は、表向きは「法治国家における法の適正な運用の為の、(暴力を含む)職務の実行主体」です(裏向きは「権力の犬」ですが、それは、まあ、どの国家でも同じで、批判に当たりません)。

 そして、国家を維持する必要不可欠なものが貨幣(日本円)であり、その流通を安全に維持すること(通貨としての役割)が非常に重要です。

 貨幣は、国家の”血液”です。血液が欠乏しても、あるいは過剰に投与されても、”国家”は死にますし、血液が流れなくなっても死にます。つまり貨幣は「適量を維持」し「流し続ける」ことが、非常に需要なのです。

 さて、この国家の”血液”の保護に対する、法の保護と、警察の捜査は苛烈を極めます。

 脱税とは、国家運用の血液を奪い取る行為ですし、偽造とは、血管に赤ペンキを投入する行為です。それでも血液が致死量ギリギリだって、ペンキを輸血したって「生きていればいいじゃん?」とも言えます。

 が、そういう人間(日本国)の中で生きている国民は、本体が「いつまで、この体で生き続けられるんだろうか」と不安になりますし、当然、国外からは「そういう方(国家)との、お付き合いするのは、ちょっと……」と思われてしまうでしょう。

 特に、偽造に対する法律の規定は極めて厳しいです(最高刑が”無期懲役”)。そして警察の捜査は、それがわずかな量の貨幣であったとしても、情け容赦がありません。過去の事件を調べてみたのですが、『偽札を作った犯人は、地の果てまで追い詰める』という気迫を感じました。

 まあ、貨幣偽造は、(現在、海外ニュース(香港)で頻繁に聞くようになった)「国家転覆罪」と同じ意味を持ちますし、実際に、戦争中に、敵国の経済を破綻させることを目的とした、大規模な偽札作戦(例:ベインハルト作戦)も行われていました。

 いずれにしろ、「貨幣の真正保証」は、貨幣の信用の根源であり、国家存続の必須要件です。その目的を達成するためには、国家はなんとしても ―― たとえ、偽札の1万円札をたった1枚、偽造しただけの犯人の摘発に、1億円の予算を投入しても ―― 犯人の検挙を成し遂げるのです。

貨幣信用のバックボーンは「ジャイアニズム」である

 さて次は、軍事力です。

 軍事力の必要性は、一言で言えば、貨幣のオーナー(発行/管理責任者)の保護です。オーナーの存在しない硬貨なんぞ、ただの金属片であり、そして、紙幣に至っては、計算用紙にも使えないただの紙きれです(たき付けの紙くらいには使えるかもしれません)。

 要するに、貨幣の信用を守るためには、そのオーナーに死なれては困るのです。

 日本国が、これから100年後も、その後も存在し続ける、と、誰からも確信をもって信じてもらうことが、「貨幣の信用」には、どうしても必要なのです。

 そして、我が国の防衛費(ほぼ「軍事費」と同義です)は、世界第9位です。

 比して、日本の同盟国である米国の軍事費は、ぶっちぎりの1位です。日本の15倍以上です。中国と比較しても2.8倍以上あります。

 もし、我が国と米国との安全保障条約を破棄されれば、直ちに周辺国が我が国に対する軍事行動に移行する ―― か、どうかは不明ですが、「日本円の歴史的大暴落」を、私たちがこの目で目撃することになることは確実です。

 個人的所感ですが、1米ドル=500円、下手すると1000円くらいにまで下落し、日本株は大暴落し、その日のうちに、日本はデフォルトを世界に宣言するかもしれません。

 つまり、私が、これまで「信用」「信用」「信用」と、しつこく繰り返してきたものの正体の根っこは、警察力であり、軍事力であり、つまるところ、「暴力装置」そのものに尽きると言えます。

 もっと簡単に言い直しましょう。

 われわれは「のび太の発行する貨幣」なんか信じない。「ドラえもんの貨幣」もしかり。しかし「ジャイアンの発行する貨幣」なら信用に足るということです。ジャイアンなら、「なんだとぉ!俺の歌……じゃなくて、貨幣が使えないっていうのかぁ!」とどう喝し、脅迫し、暴力を行使できる主体であるからです。

 ―― 貨幣(法定通貨)の信用のバックボーンは、ジャイアニズムである

 今回は、この説に基づいて、説明を続けます(後ほど、この結論に、我が国独自の与信システムの話を取り入れます)。

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