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東京大、高容量蓄電池を可能にする電極材料を発見酸素の電子を利用しても損失なし

東京大学は、酸素の電子を電力貯蔵に利用してもエネルギー損失がない電極材料を発見した。蓄電池の容量を大幅に高めることが可能となる。

» 2021年02月04日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

酸素の電子を放出した状態が安定して存在

 東京大学大学院工学系研究科の山田淳夫教授、大久保將史准教授、Xiangmei Shi博士研究員、土本晃久大学院生らの研究グループは2021年1月、酸素の電子を電力貯蔵に利用してもエネルギー損失がない電極材料を発見したと発表した。蓄電池の容量を大幅に高めることが可能となる。

酸素の電子を利用した高容量電極材料のイメージ図 出典:東京大学

 リチウムイオン電池に代表される蓄電池は、モバイル機器や電気自動車(EV)、家庭用など幅広い用途で需要が拡大する。カーボンニュートラルな持続社会の構築の向け、電池の電力貯蔵能力をさらに高めるための研究開発も進む。その1つが、電極材料に含まれる酸素の電子を電力貯蔵に用いる試みだ。

 従来は、電極材料(遷移金属酸化物)に含まれる一部の元素(遷移金属)のみを、電子の放出・吸収源として利用しており、電力貯蔵能力の向上には限界があったという。酸素の電子を電力貯蔵に用いる場合でも、高容量化を実現できる半面、蓄積した電気エネルギーが熱として放出されるため、大きなエネルギー損失を生じるという課題があった。

 研究グループが新たに発見した電極材料「Na2Mn3O7」は、酸素の電子を電力貯蔵に用いても、エネルギー損失がなく電気エネルギーを貯蔵できることが分かった。

上図はこれまでの電極材料、下図は今回発見したNa2Mn3O7におけるエネルギー損失 出典:東京大学

 具体的には、Na2Mn3O7が4.23V、4.55Vで充電されてNa+を脱離。同時に酸素が電子を放出して電気エネルギーを貯蔵する。放電を行うとNa+が挿入され、酸素が電子を吸収して電気エネルギーを供給する。重要なのはこの放電が4.19V、4.52Vで行われる点だという。充電と放電が0.04V、0.03Vという極めて小さい電圧差であるため、電気エネルギーの損失はほとんどなく、貯蔵・供給が可能となった。

 研究グループは、電気エネルギーが失われない要因も調べた。酸素の電子状態を磁気測定した結果、酸素の電子が放出された状態(リガンドホール)が、安定に存在していることが分かった。これまでは、酸素の電子が放出されると不安定な構造となり、酸素原子同士が結合することによってエネルギーが失われていたという。

 第一原理計算により電子状態を調べたところ、電子を放出した酸素の2p軌道が、Mnの3d軌道と強く相互作用し、酸素の電子が放出された状態を安定化していることが判明した。

第一原理計算から得られた状態密度(左)とフェルミ準位直上の軌道(右) 出典:東京大学

 研究グループは今後、酸素原子同士の結合を防ぐことができる電極材料の開発を急ぎ、高容量電池の早期実用化を目指す。

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