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SiCウエハー欠陥の無害化技術を開発、関学大と豊田通商2000℃の高温で「歪みを出し切る」

関西学院大学と豊田通商は2021年3月1日、SiC(炭化ケイ素)ウエハー基板における基底面転位と呼ばれる欠陥を無害化する表面ナノ制御プロセス技術を開発したと発表した。

» 2021年03月02日 09時30分 公開
[竹本達哉EE Times Japan]

 関西学院大学と豊田通商は2021年3月1日、SiC(炭化ケイ素)ウエハー基板における基底面転位と呼ばれる欠陥を無害化する表面ナノ制御プロセス技術を開発したと発表した。低品質なSiCウエハーを用いて高品質なSiCデバイスを作ることが可能で、高い製造コストが普及の妨げになっているSiCデバイスの低価格化に貢献する技術として期待される。

 両者が開発した技術は、SiC基板製造における結晶成長プロセスや、スライス、研削/研磨といった機械加工時に基板内部に生じる歪みに起因する欠陥である基底面転位(以下、BPD欠陥)を無害化するもの。具体的には、1600℃から2100℃という超高温下の気温環境で、温度を変化させるなどして、ウエハー表面の原子の配列を自律的に制御し、ウエハー表面にBPD欠陥のない高品質なSiC結晶の層を作るもの。BPD欠陥のない層を作る具体的なプロセスは、アニーリング、エッチング、グロースの3つ。これら3つのプロセスは1台の装置で実施したという。

開発した表面ナノ制御プロセス技術「Dynamic AGE-ing」の技術概要 (クリックで拡大) 出典:関西学院大学

 一般的に、SiCウエハー基板の加工は、機械研磨、化学研磨などを行って、ウエハー表面に発生する加工歪みを取り除き、その上で化学気相成長(CVD)によって、歪みの少ない、高品質なSiC層を構築する。ただ、従来の方法では、基板内部の歪みを取り除くことができず、CVDで構築した成長層にも一部の歪みが伝搬し、BPD欠陥が現れた。これに対し「Dynamic AGE-ing」と呼ぶ今回の開発技術は「一般的なCVDとは異なり、2000℃前後の高温環境で歪みを出し切る。そのため、より欠陥の多い低品質なウエハーでも高い割合で無害化できる」(関西学院大学理工学部教授の金子忠昭氏)と説明する。

 両者は、市販のSiCウエハーを用いて、Dynamic AGE-ingによるBPD欠陥の無害化検証を実施。その結果、1cm2当たり5347個あった6インチウエハーのBPD欠陥を同0.006個まで低減。同じく4935個あった6インチウエハーではBPD欠陥を完全に無害化したという。4インチウエハーでは、同7000個以上というBPD密度のウエハーで、BCP欠陥数をウエハー基板全面で1個以下にできたことを確認したという。

「Dynamic AGE-ing」(DA)によるBPD欠陥無害化の検証例 (クリックで拡大) 出典:関西学院大学

 豊田通商と関西学院大学は「Dynamic AGE-ingを適用したSiC基板のサンプル供給を、2021年度上期から開始し、半導体デバイスメーカーと共同で実用化に向けた評価検証を進めていく。今後、自動車分野を中心とした幅広いユーザー企業へ、高品質で競争力の高い6インチSiC基板を供給するため、ビジネスパートナーを広く募り、量産化の早期実現を目指す。併せて、大口径8インチSiC基板へのDynamic AGE-ingの適用に向けた開発も加速させていく」としている。

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