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京都大学、フーリエ変換型赤外量子分光法を実証可視光のみの検出で赤外分光を実現

京都大学は、量子もつれ光の干渉を用い、可視光のみの検出で赤外分光を行う新たな方法「フーリエ変換型赤外量子分光法」を提案し、その有用性を実証した。分光装置を用いない方式のため、小型化で高感度の分析装置を実現できる。

» 2021年03月15日 13時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

分光装置が不要、小型で高感度の分析装置を実現

 京都大学大学院工学研究科の竹内繁樹教授や岡本亮准教授、向井佑研究員、田嶌俊之研究員および、荒畑雅也博士課程学生らによる研究グループは2021年3月、量子もつれ光の干渉を用い、可視光のみの検出で赤外分光を行う新たな方法「フーリエ変換型赤外量子分光法(QFTIR:Quantum Fourier-transform infrared spectroscopy)」を提案し、その有用性を実証したと発表した。分光装置を用いない方式のため、小型化で高感度の分析装置を実現できるという。

 電子や光子などの量子は、それぞれの振る舞いや相関(量子もつれ)を制御することで、量子コンピュータや量子暗号、量子センシングなどを実現することができる。特に光子は長距離伝送が可能で、室温でも量子状態が保存されることから、担体として有力視されている。特に、量子もつれ光源としての活用が注目されている。

 物質中にある分子の種類を特定する方法としては「赤外量子吸収分光法(IRQAS:Infrared Quantum Absorption Spectroscopy)」が注目されている。可視域と赤外域に発生する「量子もつれ光子対」を利用する方法である。これによって、シリコン光検出器と可視域の光源のみを用いて、赤外吸収スペクトルを取得することが可能である。ただ、従来の赤外量子吸収分光法では、可視域の光子を波長ごとに分解する分光装置が必要となり、小型化や高分解能を実現することが難しかったという。

 今回検証したのは、分光装置を用いないQFTIR装置である。可視域のレーザー光を非線形光学結晶に入射すると、可視光子と赤外光子の対であるもつれ光子対が発生する。この光子対を波長フィルターで分離し、赤外光子を鏡で反射させる。可視光子とレーザー光も別の鏡で反射させ、非線形光学結晶に再度入射すると光子対が生成されるという。

上図はQFTIRのイメージ図、下図は今回実証したQFTIR実験装置の概要図 出典:京都大学

 発生した2つのもつれ光子対により、量子干渉が生じる。赤外光子が反射する鏡の位置を移動させると、発生する可視の光子が増減して干渉縞となる。この干渉縞を「フーリエ変換」すれば、赤外吸収スペクトルや屈折率スペクトルを取得できることが理論的に分かった。

左が観測された量子干渉信号、右は干渉縞の信号ピーク近傍の拡大図 出典:京都大学

 研究グループは、検証用の実験系を構築し、光学特性が知られている光学フィルターの透過率絶対値スペクトルや、石英ガラスの屈折率と消衰係数のスペクトルを計測することに成功した。

左がQFTIRで測定した光学フィルターの透過率スペクトル、右はQFTIRの計測結果を用いて算出した石英ガラスの光学特性スペクトル 出典:京都大学

 研究グループによると、開発したQFTIRを用いると、スマートフォンなどに搭載されるシリコン光検出器を用いて、赤外吸収スペクトルや屈折率スペクトルを取得することが可能になるという。

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