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半導体製造、米国の“国内回帰”のメリット台湾にも不安材料はある(1/2 ページ)

オフショアリングの主な利点は、今も昔も変わらず「人件費を削減できる」という点だ。しかし近年では、安価な労働力の流動化が進み、より高い生活水準を求める声が高まると、人件費に対する圧力が強くなっている。

» 2021年03月29日 11時30分 公開
[Don ScansenEE Times]

 オフショアリングの主な利点は、今も昔も変わらず「人件費を削減できる」という点だ。しかし近年では、安価な労働力の流動化が進み、より高い生活水準を求める声が高まると、人件費に対する圧力が強くなっている。

 世界中のさまざまな地域、とりわけまだ開発段階にある地域では、規制緩和が行われている。しかし、こうした国々が豊かになってくると、国内への対処を優先したいと考えるようになるのも当然のことだ。また、政府規制や企業倫理などによって、自然環境に対する配慮も高まっていることから、コストも増大傾向にある。

 半導体製造工場のコストが数千億米ドル規模へと増加するに伴い、安価な労働力の最先端領域へと単純に移動すればよいという問題ではなくなってきた。それを証明しているのが、中国で経験したウエハーファウンドリーの問題だ。中国で工場を設立するには、既に知られている知的所有権関連のリスクに加え、官僚的な問題も存在する。

画像:TSMC

 現在、オフショアリングのコストを算出する方法が変化している。中国では、賃金の格差がなくなってきた。中国は、爆発的な経済成長を遂げたことにより、都市部の実質賃金が、(Forbesがレポートを発表した2000年当時と比べて)8倍に上昇するなど、明らかにバランスが変化している。

 筆者の見解では、オフショアリングは、特定の技術を商品と見なすことによって、急速に合理化が進んだとみられる。コンシューマー市場向けの量産部品は、国家安全保障の問題とは何の関係もない。DRAMのメガファブや専用工場による、安価なコンピュータ向けチップセットや最新のスマートフォン向けプロセッサなどの量産は、戦略的に行われているわけではない。

 「戦略的技術は、軍事/航空宇宙分野のためのものである」という考え方は単純すぎる。米国や欧州から、最先端の半導体製造技術が生み出された背景には、軍事用技術への過度な注力が大きな役目を果たしたということがある。専用デバイスの少量の生産に関しては、引き続き現地で行われるが、最先端の半導体技術に関しては、アジアのコモディティ製品生産工場の独占領域となった。

 また別の見方として、軍事/航空宇宙技術は、より素晴らしい宇宙時代のためのものだといえる。デジタルCMOSの他、ごく一般的なWi-Fiやセルラーネットワークなどに向けたシリコンベースのRF回路などは、テラヘルツ周波数帯で動作する複合的な半導体ベースのレーダーや各種システムにとって、白物家電のような存在ではないだろうか。また、ごく普通のCMOSは、空中でミサイルを迎撃するレーザー砲を作ることはできないだろう。

 それとも可能なのだろうか。

 このような最先端の高性能軍事技術を自国内に引き止めていても、その制御に関しては全て、最先端のコンピュータブレインに依存している。このため軍事分野は、海外オフショアで開発される主流派の設計にますます依存するようになっている。設計の出どころに関係なく、高性能な処理能力を実現するためには、優れたシリコンプロセスが必要だ。

 ここで良いニュースと言えるのは、軍事調達においてこうした点が理解されているということだ。しかし悪いニュースは、実際に実現するまでに少し時間がかかるということである。国内の悲観主義者たちにアピールできるよう、半導体技術のオフショアリングにおける最悪のケースについて見てみよう。

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