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» 2021年04月27日 11時30分 公開

「バンクシーの絵を焼き、NFT化する」という狂気踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(12)ブロックチェーン(6)(9/9 ページ)

[江端智一,EE Times Japan]
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NFTが“実体”となる日

後輩:「私、NFTなるものを全然知りませんでしたので、今回のコラムはとても勉強なりました。ありがとうございました」

江端:「まあ、NFTが『仕組まれたイベント』で騒がれだしたのは、先月くらいからだから、知らないのは仕方ないと思う」

後輩:「ということは、江端さん、まだブロックチェーン界隈ですら騒ぎになっていないものを、わざわざネタにしたのですか?」

江端:「結果的にはそうなるかな」

後輩:「江端さんのやること、時々、私には、理解できません。今回のコラムは『ブーム以前のモノを紹介して、それに火が付いてもいないのに、水をぶっかけている』感じですよね。マッチポンプ*)ですらない。一体、何考えているんですか?」

*)自分で起こしておいたもめ事の収拾を持ちかけて、利を得ようとすることや、そういう人物のこと

江端:「いいんだよ。これから、“NFT詐欺”みたいなものが出てくるなら、今の内に警告出しておきたかったし。近い未来に、『え!私の描いた絵が、100万円?』てな広告を出して、GAS代金(手数料)でもうけようとする悪質なNFT取引所が跋扈(ばっこ)してくるから ―― そこは賭けてもいい

後輩:「江端さんの見解によれば、『NFTは、法的効力を持たない、ただの所有権の主張』なんですよね」

江端:「そう。そういう意味では『ビットコインは、暴力装置をバックに持たない、ビット列の通貨』と似ている。ただ、ビットコインは曲がりなりにも10年の実績があるけど、NFTは、知られ出したのが最近で分が悪い上に、スジも悪い。最終的にNFTはコケると思う

後輩:「……」

江端:「ん? どうした?」

後輩:「江端さんの言っている通り、NFTは、現実世界においては、全くその通りだと思うのですが……」

江端:「ん? 何?」

後輩:「江端さんが分析していた、あの『Second Life』ですよ。江端さんの頭では理解できないかもしれませんが、『Second Life』という概念は、今や存在しません。気がついていましたか?」

江端:「?」

後輩:「えっとですね、江端さんはもう『ゲームの世界』について述べていますので、私は、『eスポーツ』で説明しましょう。江端さん。『eスポーツ』って、本当の意味で“スポーツ”なんです」

江端:「何? それって、何かの謎かけ?」

後輩:「私たちの知っているゲームとは、基本的に『コンピュータ vs 人間』でしたよね。でも、“eスポーツ”というゲームは、『人間 vs 人間』のマジなスポーツです。戦略、戦術、チームプレイ、あらゆるものが駆使されて、ゲーム終了後には、真剣な反省会が行われている、バチバチの体育会系です」

江端:「……」

後輩:「コンピュータは、その戦っている場所(仮想空間)を提供するだけの装置に堕ちているんです。コンピュータは、ゲームに参加すらせてもらえないんです」

江端:「……」

後輩:「さらに、”eスポーツ”の観客は、そのプラットフォーム(仮想空間)の中に入って、自分の推しのチームを応援するんです。そして、その空間の中で、チームのユニフォーム(アイテム)を購入して、それを仮想空間内の自分のアバターに着せて、チームを応援しているのです」

江端:「え? それ、もう、普通のゲーム観戦じゃないか」

後輩:「ほらね。江端さんの頭でも付いて行けていないでしょう? 彼らは、その世界の中で、出会い、会話をし、共に闘い、けんかし、そして別れるのです。で、その世界は『バーチャル』ですか?」

江端:「いや……それは『バーチャル』ではない。……『もう一つの人生』そのものだ」

後輩:「その通りです。今や人生は2つ以上あるのがデフォルトです。それをわざわざ『Second Life』やら、『現実』と『仮想』というように名前を付けて区別する必要があります?」

江端:「ないな……全くない」

後輩:「『もう一つの人生』の世界で、守ならなければならない”モノ”は、(1)キャラクター、(2)アイテム、(3)仮想空間内の不動産、さらには(4)ユーザーが見つけ出した効率的なドラゴンの攻撃方法、そのような”モノ”になります」

江端:「ふむ、それで?」

後輩:「これらの“モノ”を、どうやって保護しますか? ―― 法律なし、刑罰なし、暴力装置なし、選挙もなく、主義もなく、そもそも国家などという統治機関がない。しかも、上記(1)〜(4)は、コピペが無制限に可能な世界です。仮想空間内の”モノ”を、”モノ”として守る手段は、絶無です」

江端:「で?」

後輩:「そうなると、仮想空間内の“モノ”を保護する手段は、NFTくらいのものです

江端:「なるほど……。仮想空間内の“モノ”は、無限のコピペが可能。その世界の中で、所有権を主張する手段がNFTである、と。仮想空間内に限っていえば、それは“モノ”を実効支配できる”物権”であり、他人に譲渡するだけではなく、もしかしたら、子どもへの遺産相続の対象となる”私有財産”にすらなりえる……」

後輩:「そうです。ゲームのバージョンアップと、渋谷の再開発は、同じ話です。変わらずに存在し続けるのは、そこにいるキャラクター(人間)と、キャラクターが有する“モノ”(財産)だけです」

江端:「『もう一つの人生』の世界は、現実と同じ世界の時間軸で存在し続ける。そして、そこでは、現実世界の”モノ”の保護の手段が“NFT”になり得る、と ―― それは『ものすごい話』じゃないか?



江端:「だが、そういう、話ってどこにも見つからなかったぞ。「76億円」だの、「絵画を焼却した」だの、そんな話しか見つからなかったぞ……」

後輩:「今の現実世界が、『もう一つの人生』における、NFTの価値を評価するフェーズに入っておらず、時期尚早だからでしょう。しかし ――

2つ以上の人生を生きることが、誰にとっても、当たり前の世の中になったその時、NFTは、『もう一つの(仮想)世界』における“モノ(実体)”となって、2つ以上の世界で移動し始めるのです」


Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


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