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有害元素を含まないハロゲン系青色発光体を開発発光効率95%以上で高い大気安定性

東京工業大学は、有害元素を含まない「ハロゲン系青色発光体」を新たに開発したと発表した。この発光体は発光効率(PLQY)が95%と極めて高く、大気安定性にも優れている。

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ヨウ素イオンと塩素イオンの複合アニオン化合物を選択

 東京工業大学元素戦略研究センターのリ ジャンウェイ(Jiangwei Li)研究員とキム ジョンファン(Junghwan Kim)助教、細野秀雄栄誉教授らによる研究チームは2020年9月、有害元素を含まない「ハロゲン系青色発光体(Cs5Cu3Cl6I2)」を新たに開発したと発表した。この発光体は発光効率(PLQY)が95%と極めて高く、大気安定性にも優れている。

 蛍光体は波長変換によってさまざまな色を作り出すことができる。例えば、ディスプレイなどに用いるLEDバックライトは、青色LEDと黄色の蛍光体を組み合わせることで白色光を作り出している。紫外光を可視光に変換することも可能である。ここで重要になるのが、PLQYと呼ばれる指標で、変換時の効率を示す値である。

 研究チームはこれまでも、有害元素のカドニウムや鉛を含まない発光材料の研究を行ってきた。2018年には、ハロゲン系青色発光体「Cs3Cu2I5」を発表している。これは、90%以上のPLQYと大気安定性を実現した有害元素フリーの発光材料である。

 今回は複合アニオン化合物に着目し、新たなハロゲン化物発光体を開発することにした。ペロブスカイト型ハロゲン化物(CsPbX3)では、イオン半径が比較的近い2種のアニオンを用いて固溶体を作ることができる。Cs3Cu2X5(Xはヨウ素、臭素、塩素など)でも複合アニオンを用いた研究が行われているが、これらはCs3Cu2I5に比べて、発光特性や大気安定性が下回っているという。

 研究チームは今回、イオン半径が大きく異なるヨウ素イオン(I-)と塩素イオン(Cl-)からなる複合アニオン化合物を用いることにした。一般的にこの複合アニオン化合物では相分離すると考えられていた。そこで研究チームは、この複合アニオン化合物を許容する新たな相を調べた。そして、Cs5Cu3Cl6I2という新たな相が存在することを確認した。

 Cs5Cu3Cl6I2は、[Cu3Cl6I25-の多面体がジグザグの模様で1次元的につながった結晶構造である。特徴的なのは、多面体同士の結合位置にはヨウ素イオンのみが存在していることである。


Cs5Cu3Cl6I2の結晶構造(白はセシウム、青は銅、紫はヨウ素、緑は塩素)出典:東京工業大学

 Cs5Cu3Cl6I2の発光波長は460nmである。発光効率は95%と極めて高い値となった。大気安定性の試験では、大気中に90日間放置しても劣化が確認できず、極めて良好であることが分かった。研究チームは、「Cs5Cu3Cl6I2の大気安定性には、ヨウ素イオンが多面体同士の結合位置を占有し、かつ価電子帯上端を塩素イオンに代わって支配していることが大きく影響している」とみている。


左はCs3Cu2I5とCs5Cu3Cl6I2の発光スペクトルの比較、中央は薄膜および粉末試料の発光写真、右は従来のCs3Cu2Cl5とCs5Cu3Cl6I2の大気安定性の比較 出典:東京工業大学

従来のハロゲン系発光体との発光特性の比較 (クリックで拡大) 出典:東京工業大学

 研究チームは、Cs3Cu2I5やCsCu2I3といった従来のハロゲン系青色発光体と、開発したCs5Cu3Cl6I2について、その次元性やPLQY、電子構造の相関を調べた。

 この結果、Cs5Cu3Cl6I2とCsCu2I3は同じ1次元性材料でありながら、PLQYはCs5Cu3Cl6I2が95%に対し、CsCu2I3は10%で、大きな差となった。この理由について、「価電子帯上端の局在性、つまり正孔の有効質量の違いによるもの」と結論付けた。

 また、Cs5Cu3Cl6I2の伝導帯下端には比較的大きなバンド分散がみられた。「価電子帯上端に生成された局在する正孔と、伝導帯下端にみられる遍歴性の高い電子によって、発光効率の高い自己束縛励起子が効率よく生成された」ことが、Cs5Cu3Cl6I2の高いPLQYにつながったとみている。


電子構造の比較。左はCs3Cu2I5、中央はCs5Cu3Cl6I2、右はCsCu2I3 出典:東京工業大学

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