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EVに電子をポンプで“給油”、液体電池がガソリン置き換えを狙うエネルギー技術 電気自動車(2/2 ページ)

» 2011年09月05日 18時11分 公開
[R. Colin Johnson,EE Times]
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リチウムイオンを凌ぐ技術となるか

 24M Technologiesは、これらの初期資金をベースにして、リチウムイオン電池に比べて半分のコストで、2倍のエネルギー密度を実現する液体電池の試作品を完成させる予定だ。目標に掲げるエネルギー密度は500Wh/kg。これを電気自動車向けでは250米ドル/kWh、グリッドアプリケーション向けでは100米ドル/kWhのコストで実現することを目指す。

 また同社は、独自のフロー電池(流動電池)構造により、A123 Systemsが製造する先端のリチウムイオン電池や、最も効率の高い既存の燃料電池技術に比べても、材料と製造のコストを低減できると主張する。セルベースのサブアセンブリも、ナノ粒子の電極コーティングやカレンダリング、スリッティング、タブリング、そしてモジュールアセンブリなどのユニットごとの処理も不要なアーキテクチャを採用していることが鍵だという。

ハイブリッド車とEVですみ分ける

 24M Technologiesのコア技術は、Chiang氏がA123 Systemsで取り組んでいた研究で生まれたものだ。さらに、同氏がMITで主導した米国防高等研究事業局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)向けの研究の成果も下敷きにしている。A123は、24Mの株式を保有し、取締役も送り込んでおり、24Mの技術開発を促進する役割を担う。A123にとって24Mは「両賭け」という側面もある。つまりA123の先端リチウムイオン電池は市場で幸先の良いスタートを切っているが、より挑戦的なアプローチをとる24Mの技術が将来、それに競合する存在に育つ可能性がある。

 A123は、ナノテクノロジーを活用して理想的な結晶構造を実現する独自の技術を「ナノフォスフェイト(nanophosphate)」と呼んで保有しており、24Mのプレジデントを務めるThroop Wilder氏によると、その技術は「ハイブリッド自動車向け電池に特に有効だ」という。一方で、「電気自動車では、容量と耐用期間についてコストの最適化を図った電池が必要になり、それこそ24Mの技術が最も有効な用途だ」(同氏)と説明する。それによれば、24Mのフロー電池の構造は、エネルギーを貯蔵する機能とそのエネルギーを電力として供給する機能を切り分けているので、まずエネルギーを取り出すリアクター部のスタックを所要の“馬力”に合わせて用意し、次に、所望の走行距離に応じたサイズの貯蔵タンクを組み合わせるという方法で構築できる。「これは、ガソリンタンクのサイズで走行可能な距離が決まり、エンジンのサイズで走行速度が決まる、内燃機関方式のエンジンと同じ方式だ」(同氏)。

固体から液体へ

 旧来の電池は、電子を発生させる固体電解質が電池のセル内部に閉じ込められており、電極における化学反応によって放出されていた。一方、フロー電池では、液体電解質の中に電子が保持されており、その液体電解質をリアクターに送って電子を取り込む仕組みだ。このためフロー電池は、再充電の代わりに、電解質を“タンク”に補給するだけで済む。

 フロー電池は、既存の電池の限界だった1.5Vを上回る電圧を出力できるだけでなく、既存の電池では固体電解質や電極で消耗していた各種のエレメントも消耗しない。消耗のためにメンテナンスが必要なのは、ポンプとセンサー、リアクターだけだ。そのため、長期的な信頼性を飛躍的に向上させられる。

 さらにフロー電池は、前述の通り、電池の容量(タンクのサイズ)と出力電力(リアクターのサイズ)を切り分ける構造をとっているので、携帯型機器用のμmオーダーの超小型装置から、発電所に向けた10mオーダーの大型装置に至るまで、あらゆる種類の用途に合わせてサイズを調整できる(図3図4)。

図3 図3 電気自動車用フロー電池の開発が進む ドイツの研究機関であるFraunhofer Instituteの化学技術部門は、電気自動車に向けたフロー電池を開発中である。出典:Fraunhofer

 米国エネルギー省(DOE)が出資するプロジェクトではすでに、バナジウムレドックス系や亜鉛ハロゲン系などのさまざまな水溶性化学物質をベースにしたフロー電池を試作している。しかし24M Technologiesによると、こうした取り組みはすべて、エネルギー密度に限界があるため、電気自動車に求められる要件を満たすことができないという。同社は、水溶性化学物資の約10倍のエネルギーを電極に貯蔵することが可能な、世界初の「半固体(semi-solid)フロー電池」を開発したと主張する。LiCoO2(コバルト酸リチウム)などのリチウムイオン電池で使われている固体活物質を液体中に分散させた懸濁液と、アルキルカーボネート電解液の中で懸濁させたナノスケールの導電性カーボンを組み合わせて使うことで実現したと説明する。液体中でナノスケールのカーボン粒子が自然発生的に導電経路を作り出し、電子はその経路を通って直接、集電体の電極に到達できるという仕組みだ。

 また24M Technologiesは、水溶性化学物質よりもエネルギー密度が極めて高い液体を使用することにより、グリッド規模の蓄電アプリケーションに向けてコスト競争力に優れたフロー電池システムを開発することもできると主張している。

図4 図4 大規模発電施設に向けたフロー電池も開発中 米国カリフォルニア州サンノゼに拠点を置くEcoVoltzは、風力発電所などの大規模発電施設をターゲットにしたフロー電池の開発を進めている。出典:EcoVoltz

複雑なシステムが課題に

 Cambridge Crudeの正式名称は、「SSFC(Semi-solid Flow Cell:半固体フロー電池)」である。液体の粘度が高い上、燃料電池(FC:Fuel Cell)に類似する点が幾つかあることからこのように名付けられた。SSFCの狙いは、再充電可能な電池の特徴である高いエネルギー密度と、燃料電池の利点である拡張性、フロー電池の特性である長い寿命を全て実現することにある。24M Technologiesは、商用化を前にして競合メーカーに情報が漏れるのを防ぐため、開発プロセスの詳細についてはほとんど明かしていない。しかしSSFCの基本原理は、液状の電荷移動化合物を蓄電性の固体化合物の懸濁液中にため込んでおくというものだという。また、その懸濁液は、ナノスケールの負極と正極の網目を介して浸潤できるように十分に希釈しておく必要があると説明している。

 24M Technologiesによると、SSFCが既存の電池に比べて劣る点としては、機械式ポンプやセンサー、コントロールユニットなどの複雑なシステムが不可欠になることが挙げられる。また、エネルギー密度に関しても、一般にフロー電池は高性能リチウムイオンの電池パックよりも低いレベルにとどまる。今のところ24M Technologiesの最新の試作品もこの例外ではない。さらに同社は、Cambridge Crudeの幅広い導入を実現するためには、カーボンナノ粒子によって自然発生的に形成される導電経路の導電率を現在の100倍に高める必要があることも認めている。

 しかし同社は、Cambridge Crudeの欠点を全て解決することが可能な画期的な技術を、今後5年間をめどに開発できるとしている。

主張通りの特性は得られるのか

 同社は、SSFCの優位性について、同社の投資家に対してもリスクを冒すだけの価値があると主張する。ゼネラルモーターズ(GM)は約3年前に10億米ドル級の予算を投じて燃料電池車の開発に取り組んだものの、寿命の課題に阻まれて思うような成果を得られていない。しかし24M Technologiesは、エネルギー密度を従来の電池の2倍、競合品であるフロー電池の10倍に高めることが可能な技術を適用することにより、その寿命に関する問題を解決できると述べている。

 例えば、24M TechnologiesのSSFCは先に述べた通り、電力を生成するコンポーネントとエネルギーを貯蔵するコンポーネントとを分離している。そのため、各コンポーネントを特定のアプリケーションに向けて個別に拡張することが可能だ。またSSFCは、電池の劣化の原因になる固体相変化を利用していないため、競合する既存方式のあらゆる電池よりもライフサイクルが長いという。

 24M Technologiesの報告によれば、SSFCは従来の電池や燃料電池、フロー電池などの優れた特性を引き継いでいるようだ。リチウムイオン電池のように応答時間が短い上に、燃料電池と同様に、環境に対して有害物質を放出することもない。さらに、フロー電池のように、携帯型機器から発電施設に至るまで多様な用途に適したサイズに拡張することができる。

 24M Technologiesは、A123 Systemsと協力してSSFCの商用化に取り組み、サイズの観点で両極にある携帯型機器と発電施設という2つの市場の他、両者の中間に位置するさまざまな市場に向けて製品を投入していく予定である。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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