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» 2013年01月15日 07時00分 UPDATE

「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(12):「失敗が約束された地」への希望なき出発……海外出張は攻撃的に準備する (1/5)

海外出張とは、「魅惑の世界」への出発ではありません。「失敗が約束された地」への希望なき出発です。それゆえ、およそ考え得るあらゆるトラブルパターンを想定し、入念な準備をしておくことが、われわれ英語に愛されないエンジニアが無事に帰還するための唯一無二の方法なのです。今回は、実践編(海外出張準備)の前編として、江端流の攻撃的かつ戦略的な出張準備を紹介します。

[江端智一,EE Times Japan]

 われわれエンジニアは、エンジニアである以上、どのような形であれ、いずれ国外に追い出される……。いかに立ち向かうか?→「『英語に愛されないエンジニア』」のための新行動論連載一覧

 20歳の時から、私は海外の一人旅を始めました。実家の都合もあって、アルバイトで学費と生活費の一部を自分で稼ぐ、いわゆる「苦学生」だったのですが、あまりそういう悲愴(ひそう)感は持っていませんでした。

 大学では良い友人に恵まれました。彼らは、割の良いバイトを紹介してくれたり、ご飯を食べさせてくれたり、一般教養の講義の代筆リポートを買い上げたりしてくれました(今になって思えば、もっと、ふっかけとけば良かった)。

 私が所属していた工学部は実験とリポート執筆の毎日で、誰も彼もがバタバタと忙しく、あまり遊ぶ時間がありませんでした。そして、幸いなことに、私は大学の勉強(特に実験など)が、結構好きだったのです。

 とにかく、週7日(つまり毎日)アルバイトを続けており、大学とバイト先と下宿の3点移動の日々を過ごしていると、大体、年度末である3月に、「小金が余っている」ことに気がつくというパターンが多かったです。といっても、学生のコンパを1年間全部キャンセルすれば捻出できる程度の金額でしたが。

 「来年のために貯金する」という観念がなかった私は、これを毎年、一人旅に使ってしまうことにしていました。「来年の金のことは、来年考えればいい」と思うことができたあの時代、私は若かったのだと思います。

海外の一人旅=自己修行!?

mm130115_eae12_bangkok.jpg 写真はイメージです

 私が選んだ国は、当時としては貧しかったアジア各国、例えば中国、タイ、ネパール、インドなどでした。なぜ、そのような国を選んだかと言うと「見え」です。

 私の思考回路では、米国や欧州などの先進国を旅することは、第三世界搾取国への加担、アジア同胞への背任行為であり(何のことやら分からん)、ましてやパックツアーを使うなどは、自分の器の狭さを自ら証明するような「みっともない」行為に映ったのです(正直に言うと、アジア各国は滞在費用が安い、という理由も入っていましたが)。

 いずれにしても、私は自分の海外一人旅を「自己修練」「修行」と考えていました


江端智一は大バカ者でした。


■その当日、宿が決まっていない中、視界の限り広がる地平線に沈んでいく太陽を眺めているときの、果てしない心細さ
■言葉の通じない国で切符を購入しなければならない不便さ、不安さ
■窃盗を心配しながら、ドミトリー(1つの部屋にたくさんのベッドが入っている、病院の大部屋のような宿舎)で、パッキングした荷物に抱きつきながら寝る空しさ
■電話のない辺境地において、フライト72時間前の、飛行機のリコンファーム*1)をするために、電話局を探し回った必死さ*2)

(*1)今では信じられないかもしれませんが、当時、航空会社は、72時間前に「帰国の飛行機に乗りますよ」と一報入れておかないと、自動的に予約がキャンセルされるという、ゴーマンな制度を設けていました。

(*2)いわゆる「OKチケット」という格安チケットであり、便の変更が不可能で、もし欠航した場合、いつのフライトに振り替えられるか分からなかった(1週間後のフライトということもあり得て、しかも宿泊代などの補償は無し)のです。


 己の器量を測ることもなく、小さい器の自分に自分が与えた、これらの、「心細さ」「不安さ」「空しさ」「必死さ」が導いた結実は一体何だったか。

 それは、「せっかくの海外旅行を、苦痛に満ちあふれたものにする」という、誠に愚かしい行為でした。旅を楽しくするために、一番大切なことは何だったかといえば、トラブルを可能な限り少なくすることだったのです。

 当時、私たち一人旅者(リュックを背負って旅をしていたので「バックパッカー」と呼ばれていました)は、「JALパック」などのパックツアー旅行をする同世代の若者を嘲笑していました。「JALパック」や「JTBパック」を使い、グループ(男4人くらいの仲間)でアジアを旅してきた後輩が「自分の器が大きくなった」と触れ回っていた話では、よく彼を笑い者にしていたのですが、とんでもない間違いでした。

 嘲笑されるべきは、私の方だったのです。

 パックツアーであれ何であれ、誰かがトラブルシューティングを引き受けてくれることで、自分は観光名所を堪能し、食事を楽しみ、人との会話に花を咲かすことができたら、それが「本来の旅行の目的」であるはずです。自分の器を大きくしようとして、あるいは、大きく見せようとして、自分の器を超えるむちゃな旅をして、自分を苦しめてきただけの私は、「バカ」を100乗しても足りないくらいの大バカ野郎でした。

 学生時代の一人旅を通して、私は、「海外で快適に過ごしたいなら、見えもプライドもかなぐり捨て、トラブルを徹底的に回避できる手段を取り、備えをしておくべきである」ということを学んだのです。

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