連載
» 2016年10月28日 11時30分 UPDATE

Over the AI ――AIの向こう側に:困惑する人工知能 〜1秒間の演算の説明に100年かかる!? (1/8)

コンピュータは、入力値から出力値に至る演算のプロセスを、順番通りに説明できます。ところが、「なぜ、その結果になったのか」と尋ねると、途端に説明できなくなってしまいます。困惑し、黙りこくったり、自分が行った演算を“言い訳”のごとく延々と説明したりと、迷走を始めるのです。

[江端智一,EE Times Japan]

今、ちまたをにぎわせているAI(人工知能)。しかしAIは、特に新しい話題ではなく、何十年も前から隆盛と衰退を繰り返してきたテーマなのです。にもかかわらず、その実態は曖昧なまま……。本連載では、AIの栄枯盛衰を見てきた著者が、AIについてたっぷりと検証していきます。果たして”AIの彼方(かなた)”には、中堅主任研究員が夢見るような”知能”があるのでしょうか――。⇒連載バックナンバー


海外ドラマが誤解を招く

 私は、ドラマが苦手です。特に、ホームドラマといわれているものは、テレビの音が聞こえない所まで逃げ出すくらい苦手です(参考ブログ)。

 しかし、そんな私でも、海外のドラマの中には気にいっているものがありまして、その中の1つが、「ナンバーズ 天才数学者の事件ファイル」です。

 ひとことで言うと、数学を使った犯罪捜査のドラマなのですが、取り扱っている数学の手法が、豊富で多岐にわたっており、それなりに説得力もある、という点も気に入っています(参考:ウィキペディア)。

 もちろん、ドラマですから、細かいことを突っ込むのは禁止だと分かっているのですが、こういうドラマが、数学、データ解析、そして人工知能に対する“誤解の温床”になっているんだろうなーとは思っています。

チャーリー:「兄さん 。これは、ベイジアンネットワークを使うことで犯人の行動パターンが読めると思うよ。犯人は……という痕跡を残しているから」

ドン:「チャーリー、その解析、いつまでにできる?」

チャーリー:「今日の正午までには、なんとか」


できるかーーーー!

 そもそも、現在進行形の犯罪のデータが整形されて用意されているわけがないし、仮にあったとしても正規化の生データをそのまま使えるはずないし、データの欠陥を補填する必要もあるし、ベイジアンネットワークの設計も含めて、最初の犯人の行動パターンを読み取るまで(しかも、初回の推論は思いっきり外れる)最短でも1カ月は必要だろうし、そもそも、数時間程度で、デバッグも含めた推論プログラミングが完了できるわけがないだろうし、第一(以下省略)

 このようなドラマによって、数学とか、データ解析とか、推論とかが、こんなお手軽にできる、と世間の人が思い込んでしまうことは ―― 私たち、エンジニアや研究員にとっては、とても迷惑な話なのです

 このドラマの主人公のチャーリーは天才数学者かもしれませんが、彼はデータアナリストでもなければ、SIer*)でもありません。

*)System Integrationを行う人という意味で使われる略称

 このドラマが、数学者、データ作成者、プログラマーという、異なる職種をごっちゃごちゃにして取り扱っている点にも問題があります。このドラマは、それらの仕事に従事している人たち ―― つまり、私 ―― について、著しい誤解を視聴者に与えているともいえます。

 と、まあ、そういうことを言うことがヤボなのは分かっています。「フィクションの楽しいドラマ」であればそれで十分なのです。実際、私は、このドラマを毎週楽しみにしているのですから(家族にはウケていないようですが)。


 こんにちは、江端智一です。

 今回も、張り切って人工知能に関するお話を続けていきたいと思います。

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