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» 2017年03月13日 11時30分 UPDATE

世界を「数字」で回してみよう(40) 人身事故(最終回):人身事故を「大いなるタブー」にしてはならない (1/9)

「人身事故」という、公で真正面から議論するには“タブー”にも見えるテーマを取り上げた本シリーズも、いよいよ最終回となります。今回は、「飛び込み」を減らすにはどうすればいいのか、という視点を変え、「飛び込み」さえも構成要素として取り込む鉄道インフラシステムについて考えてみたいと思います。

[江端智一,EE Times Japan]
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「世界を『数字』で回してみよう」現在のテーマは「人身事故」。日常的に電車を使っている人なら、1度は怒りを覚えたことがある……というのが本当のところではないでしょうか。今回のシリーズでは、このテーマに思い切って踏み込み、「人身事故」を冷静に分析します。⇒連載バックナンバーはこちらから


「成人向け」の認定を受けてしまった……

 この連載の「人身事故」シリーズでは、私は(そしてEE Times Japan編集部も)「炎上」を覚悟していましたが、そのようなことはありませんでした(今回の最終回で炎上するかもしれませんが)。

 特に前回の「物理シミュレーション」に至っては、相当にエゲつない計算を強行しましたので、大声で嫌悪感を示す人がいるだろう、と腹を括っていましたが、そのような人はほとんどいなかったように思います。

 仕方がないので身内に評価を頼むことにしました。「コラムの感想をくれ」と次女に頼んだのですが、次女から「スマホに、掲示されないよ」と言われました。

 どうやら、

 ―― 「成人向け」の認定を受けてしまった

ようです。

画像はイメージです

 前回のシミュレーションは、「ティーンエージャーに向けてのメッセージ」(というか、私の2人の娘に向けたメッセージ)という思いもありましたので、「成人向けの認定」には、正直ガッカリしてしまいました。

 このシミュレーションは、2016年5月に発生した、中学2年生の女子生徒2人が手をつないで飛び込み自殺した事件を知った時に着想しました。「若い世代に『飛び込み自殺』のリアルを伝えなければ」という、思いに駆られたためです。

 写真とか動画では、ティーンエージャーには心的外傷後ストレス障害(PTSD)になってしまう可能性が否定できませんでしたので、私は今回、図、グラフ、数値、シミュレーションだけを使って、そのリアルな事故現場の再現を試みたのです ―― 不眠症を再発させながら。

 しかし、このようなシミュレーションすら、規制対象になってしまうのであれば、―― 一体、どこの誰が、どうやって、「飛び込み自殺のリアル」を、彼女達に届ければいいのか ―― と、暗い気持ちになりました。

 特に、前回のコラムでは、私は、Web閲覧の自動フィルターに対応するため、なるべく刺激的な単語を使わないようにしていました*)ので、今回の規制の主たる原因は、プロバイダーの自主的な規制または、保護者からの閲覧制限の申告によるものと推認されます。

*)まあ、まず、EE Times Japan編集部のフィルターを突破しなければならなかったのですが。

 自分の子どもたちに、あのコラムを読ませたくない ―― という保護者の気持ちは、私にも良く分かります。しかし、同時に、本当にそのままでいいのか、とも思います。

 「子どもの心を傷つけない」ことは大切ですが、アイドルや有名人の自殺に引き込まれやすいティーンエージャー*)に「命の大切さを説く」というアプローチだけで、自殺を思いとどまらせることが、果たしてできるのか ――。

 私は「無理だ」と思っています。なぜなら、私自身「命の大切さ」を腹の底から理解できたと実感できたのは、かなり最近のことだからです。

*)例えば、1933年、若い女性の三原山の火口への飛び込み自殺をきっかけに、同年だけでも900人以上もの(ほとんどが若い人)が自殺を図りました(三原山自殺事件)。


 こんにちは、江端智一です。

 今回は、「人身事故」シリーズの最終回となります。前半は、本シリーズの当初の目標とその達成状況についてのレビューを行い、後半は、この1年間の検討を通じて、私が到達した1つの仮説、「自殺を前提とした社会インフラシステム」について、持論を展開したいと思います。

 今回のシリーズで、私が私自身に課した課題は、以下の3つでした(関連記事:大いなるタブーなのか――人身事故を真面目に検証する)。

 飛び込み自殺などの人身事故によって発生する、1)乗客が感じる「怒り」の数値化、2)乗客の現実の「損害」の数値化、そして、3)飛び込み自殺の「コスト」の数値化です。

 これらの課題は、「おおむね達成した」と自己評価しています。

 では、項目ごとに、総括してみたいと思います。

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