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» 2017年07月27日 11時30分 UPDATE

Over the AI ―― AIの向こう側に(13):弱いままの人工知能 〜 “強いAI”を生み出すには「死の恐怖」が必要だ (2/9)

[江端智一,EE Times Japan]

「AIの知性」について考える

 こんにちは、江端智一です。

 今回は番外編として、人工知能(AI)技術の話ではなく、AIの知性について、いろいろな人の考え方を紹介し、思考実験をしてみようと思っています。

 さて、これまでの1年間の連載で、私は、「現在のAIブームにおいて、多くの人が描いているAIのほとんどは幻想である」と、何度も繰り返してきました。しかし、どうも私の主張は全く世の中に届いていない気がするのです。

 今回、あらためて、じっくりこの理由を考えてみたのですが、結構その理由は簡単でした。それは、


 ―― 主張している当事者が、私(江端)だから。


 私は、AI技術の著名な研究者でもなく、大手ITベンチャーの社長でもなく、AI技術に関して論文も著書も発表していない、一介のサラリーマンエンジニアにすぎません。

 私のやってきたことといえば、世の中にある「AI技術」を、チャッチャとコーディングし、追試し、検証することだけであり、それをやり続けてきた結果、「現状、世間で騒がれているAIは、幻想である」という自分なりの結論を、皆さんに説明しているだけです。

 つまり、私には、権威がないのです(威厳もないですが)。

 それならば、今回は、思い切って「権威のある人たちの意見」に乗っかってみよう、と考えました。それはもう、悪意に満ちるほどに、徹底的に権威に媚び(こび)へつらい、隷属し、忖度(そんたく)し、その上で、私の持論に引き込むという手法を用いてみたいと思います。

「宗教」という権威

 最初は「宗教」という権威から始めます。

 宗教の目的は、生物と同じで「世界中に広がり、信者を増やすこと」に付きます。ぶっちゃけ、宗教にはこれ以上の目的はなく、生物と同じアナロジーで働いています。

 ただ、「宗教」の副次的な効果には、「安定した社会の実現」があります。これは別段、宗教でなくても、「軍隊」でも「法律」でも実現可能ですが、「軍隊」や「法律」が、現世での暴力装置(暴力や刑事罰)を持っているのに対して、宗教は「暴力装置が、死後に発動する」という点にあります。

 今回、世界3大権威のそれぞれの宗教の「死後の脅迫システム」のフローチャート(概略図)を作成してみました。

 ざっくりまとめると、異教徒については、地獄行き(キリスト教とイスラム教)、あるいは、解脱できなければ(アニメ『Steins;Gate(シュタインズ・ゲート)』のように)苦痛に満ちたタイムリープを繰り返す(仏教)という風に、「死後の脅迫システム」を設計しています。

 比して、教徒については、各種の優待クーポンやサービスが提供され、特にジハード(聖戦)戦死者については、手続不問の天国直行便に乗車できるという優遇ぶりです。そして、このジハードは、イスラム教の目的「世界中に広がり、信者を増やすこと」にも貢献していると思います。

 しかし、このような「脅迫」や「優遇」は、しょせんは死後の話です。いまだかつて、誰一人として、その裏(証拠)が取れた人はいません。なぜ、そんな眉唾な「死後の脅迫システム」が、現世で機能しているのか不思議です。

 それは、人間(を含む全ての生物)が、(1)必ず死に至り、(2)根源的にその死を恐れるように設計・製造されているからです。上記(1)(2)がDNAレベルでプログラミングされていて、それを後発的に書き換えることができないからです。

 宗教は、このようにDNAにプログラミングされた「人間」という装置を、実に上手く制御するように作られています。その制御方法の考え方の1つに「パスカルの賭け」というものがあります。

 上記の図の内容を、ゲーム理論*)的に説明すると、「神の存在が分からない現世にあっては、取りあえず神の存在を肯定しておくことが、死後における最適戦略である」ということになります。

*)関連記事:「陰湿な人工知能 〜「ハズレ」の中から「マシな奴」を選ぶ

 つまり宗教というのは、AI技術の一つである「ゲーム理論」を悪……もとい、援用した、高度な戦略理論に基づいて運用されているのです。

 ここでは、人間にとって「死後の脅迫」が、現世の人間を動かす巨大な原動力となっている、という点を覚えておいてください。

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