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» 2018年06月26日 11時30分 公開

世界を「数字」で回してみよう(50) 働き方改革(9):合理的な行動が待機児童問題を招く? 現代社会を映す負のループ (5/8)

[江端智一,EE Times Japan]

「当事者意識」が生まれにくい

 さらに、この問題がいまひとつ、改善に向かわない理由として、私は「問題のライフサイクルの短かさと、スケールの小ささ」を仮説として挙げたいと思います。

 子どもは28日で新生児を完了し、1年後に乳児を完了し、4年後に幼児を終了します。極めて乱暴に言えば、この問題の存在期間は「4年間」です。そして、この4年間は、労働者が最も生産性を発揮し、キャリア構築の要(かなめ)となる、30歳前後(平均)に該当します。

 このように、この""保育所"、"待機児童"の問題は、わが国の貴重な労働力の基盤を、わずか4年足らずで破壊し尽くしてから終息するという(実際には、この後、学童問題などとして引き継がれるケースも多いですが) ―― 実にタチの悪い問題なのです。

 このような時間的問題に加えて、スケールの問題もあります。

 待機児童2.6万人 ―― と聞いた時、「数のスケール」から考える人は少ないと思います。当然です。この問題は、数の大小ではなく、本来であれば、たとえ1件であっても存在してはいけない問題であるからです。

 しかし、私は、今回あえて、このタブーに「数字」で踏み込んでみます。

 公にされている待機児童の数2.6万人は、2017年の0歳から4歳までの人口の183分の1です。「隠れ待機児童数*)」という問題もありますが、その数を加えても、そのスケールを引っくり返すほどの数にはなりません。

*)参考:別媒体に移行します。

 保育所の定員の問題を、都市部に限定せずに、全国トータルで見た場合、保育所は20万人の定員割れとなっております(だからといって、都市部に住んでいる人は引越しすればいい、などという理屈は暴論で暴力ですが)。

 ここで私が申し上げたいことは、この問題のライフサイクルは短く、さらにそのスケールが小さいということなのです。で、そのような問題が何を起こしているか ―― この問題が民主主義の大原則である「多数決の原理」に反映されないということです。

 もちろん、この問題が当事者にとって深刻かつ、喫緊のトラブルであり、さらに言えば、将来の国家の存亡に関わる重大事件であることは言うまでもありません。

 しかし、全ての人間にとって、第一に考えることは「自分」であり、「他人」ではありません。ましてや「私が死んだ後の未来の国家」など、1ミクロンの興味もありません(そうでない人もいるのでしょうが、少なくとも江端は興味ありません)。

 そして、わが国は、世界で一番早く「超」が3つくらいつく高齢化社会になることが、既に確定しています*)。これは、選挙の票のほとんどを高齢者に持っていかれる、ということです。

*)参考記事:別媒体に移行します。

 実際のところ、選挙制度の改正(18歳からの投票)後、若い人の投票率が低いままであることを知った時、正直私は安堵しました ―― 『若い連中を喰いものにして、安泰な老後を生き抜く』という私の基本戦略に揺ぎがないことが確信できたからです。

 さて、この数字を、もう少し詳細に見てみましょう。

 この問題に強い感心がある当事者として関わる世代は、現時点では70万人程度と推定され、今後減少し続けます。これを有権者数全体の比率から考えると、7%から6%を割ったところをフラフラすることになりそうです。

 しかも、真に当事者として問題に直面するのは、この183分の1( = 2.6万人 / 476.8万人)程度であると仮定すると、この有権者の比率は、実際には0.03%になる、という状況になります。

 つまり、現在の民主主義の多数決に基づく意志決定プロセスで、この問題を解決するのは、絶望的に難しいことが分かります。

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