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自動運転に加え、ロボット、農機/建機でも ―― MBDツールチェーンそろえるdSPACEの戦略dSPACE Japan 代表取締役社長 宮野隆氏

モデルベース開発(MBD)ツールの代表的なベンダーであるdSPACE。その豊富な製品から構成されるECU開発プロセスを網羅するモデルベース開発ツールチェーンをベースに、加速するADAS(先進運転支援システム)/AD(自動運転)の開発現場を中心に売り上げ実績を伸ばしている。そして迎えた2019年は、実績ある自動車市場に加えて、農機/建機やロボット市場での活動を強化し、幅広い用途でのモデルベース開発の普及を目指すという。dSPACE Japan社長を務める宮野隆氏に2019年の事業戦略を聞く。

» 2019年01月16日 10時00分 公開
[PR/EE Times Japan]
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自動運転開発に対応する仮想検証ツールチェーンで成長

――2018年の事業はいかがでしたか。

宮野隆氏 当社製品の導入先の90%程度を占める自動車の業績は、2018年も非常に好調だった。2018年は、自動運転、先進運転支援システム(ADAS)の開発が加速しており、それらに関連した売り上げが大きく伸びた1年だった。

 自動運転システムの安全性や信頼性を確保するためには、走行テストを数十億km以上、実施しなければならないといわれている。ただし、この数十億kmを実車で走行することは、物理的にほぼ不可能な距離だ。そこで、PC上の仮想環境でテストを行う“仮想検証”に注目が集まっており、当社の仮想検証ソリューションの売り上げが大きく伸びた。

――dSPACEの仮想検証ソリューションとはどのような特長を備えているのですか?

宮野氏 dSPACEの仮想検証ソリューションは、PC上で完結するシミュレーション/テスト環境だけでなく、HIL(Hardware In the Loop)ツールなど実機を用いたテスト環境まで、ECU開発プロセスを完全にカバーするツールチェーンで構成される。そのため、仮想環境で開発したソフトウェアをほぼそのまま、ハードウェア開発でも使用できる。

 PCベースのシミュレーション環境では、ECU単体のシミュレーションだけではなく、ECUを統合した仮想テストドライブ、仮想統合テスト、協調シミュレーションといった一連の仮想検証も実施できる。2019年以降の提供になる見込みだが、より、高度なシミュレーションを手軽に行えるようクラウドベースのシミュレーション環境も開発中だ。

 仮想検証ツールチェーンの一部であるハードウェア製品でも、自動運転に向けた拡張を行っている。例えば、プロトタイピングユニットでは、人工知能の推論処理や画像処理に活用されるNVIDIA製GPUを搭載した「MicroAutoBox Embedded SPU」やFPGAを搭載した製品を展開している。

NVIDIA製GPUを搭載したプロトタイピングユニット「MicroAutoBox Embedded SPU」

センサーフュージョン開発を効率化する「RTMaps」

――仮想検証ソリューションの他に2018年、特に売り上げが伸びた製品はありますか?

宮野氏 dSPACEのツールチェーンを補完する製品として2016年から販売代理店として扱いを始めているフランスのINTEMPORA社製「RTMaps」が好調だった。

 自動運転では、カメラをはじめ、ライダー(LiDAR)やレーダー、超音波センサーなど多数のセンサーが搭載され、多数のセンサーの出力を融合させて、処理する「センサーフュージョン」の必要性が増してきている。RTMapsは、そうしたセンサーフュージョンに関わるテストのためのソフトウェアツールだ。

 センサーは、物理現象を検知した後、何らかの処理を行い、プロセッサに信号を受け渡す。そのため、物理現象が起こった時間と処理が終わった時間にギャップが生まれる。センサーが複数ある場合、プロセッサは各センサーからの信号が、どの時間の物理現象の信号か分からないといったことになる。RTMapsでは、物理現象が起こった時刻情報(タイムスタンプ)をセンサー信号に付与し、全てのセンサーデータに時間相関性を持たせることができる。ユーザーはこのタイムスタンプをみながら、GUIベースで簡単にセンサーフュージョンシステムのロジックを組めるという利点がある。

 これまで、センサーフュージョンシステムの開発は、研究レベルだったが、最近は徐々に量産に向けた開発に移行している。そのため、ユーザーは高度なプログラミング技術がなくても開発できる環境を求めており、モジュール化されたコンポーネントライブラリをGUI上で組み合わせるだけで開発できるRTMapsが支持されている。

マウス操作でセンサーフュージョンシステムのロジックを設計できる「RTMaps」

自動車に加え、ロボット、農機/建機で成長狙う2019年

――2018年後半から世界経済は減速傾向にありますが、2019年以降の見通しをお聞かせください。

宮野氏 自動車業界に関しては、自動運転に向けた開発が加速し、開発規模が大きくなっているため、dSPACEのモデルベース開発ツールへの需要は拡大を続けている。特に国内に視点を向けると、五輪や万博といった大きな国際イベントを控えている。こうした国際イベントは、先進運転システムを搭載した次世代自動車のショーケースとしての役割も期待され、自動車開発は一層、活発になるとみている。少なくとも2020〜2025年までは、自動車の開発規模は大きくなり、dSPACE Japanとしても成長が見込める状況にある。したがって、2019年も2018年同様の事業成長を見込んでいる。

――2019年の事業テーマを教えてください。

宮野氏 引き続き、自動運転の実現に向かう自動車業界のトレンドに対応し、仮想検証ソリューションやRTMapsなどのツールチェーンの提案、拡販を行っていく。

 特に2019年は、自動運転やADASでのAIの活用に向けた技術開発が加速するとみている。AI自体の開発に加え、AIの安全性を担保するためにAIと並行して動くシステムの開発も進むだろう。さらに、AIに関連した新たな法規制も登場してくるだろう。こうした新たな動きを注視し、新たなテストツールの開発も進めていく。

 加えて、2019年は自動車以外の市場でも、モデルベース開発の普及、ツールチェーンの拡販を進めてきたい。具体的には、農機や建機、ロボットの領域をターゲットにしている。

――自動車以外の領域では、どういった提案を予定されていますか。

宮野氏 まず農機/建機領域は、自動車領域と同様に、自動運転化の流れが加速している。農機/建機は、自動車よりも走行場所が限られているため、自動運転を導入しやすく、自動車よりも自動運転化が速く進む可能性がある。既に、仮想検証ソリューションなどで、農機/建機領域で一定の事業実績があるが、2019年はさらに加速させたい。農機/建機領域のユーザーに向けたスペシャルイベントなどを開催し、お客さまとの接点を増やす活動を行う予定だ。

 ロボット領域については、少し中長期的視点を持って、モデルベース開発の普及啓蒙を行っていく状況だと考えている。パーソナルロボットなどは研究開発フェーズではあるものの、これから徐々に量産フェーズへと移り、品質、安全性などを担保するために開発を効率化するモデルベース開発が必須になる。積極的に、展示会などのイベントに参加し、ロボット/組み込みシステム領域でのdSPACEのツールチェーンの認知度を高めていく。

 2019年1月には、ロボデックス展(1月16〜18日/東京ビッグサイト)、関西組み込みシステム開発技術展(1月23〜25日/インテックス大阪)に出展し、RTMapsのデモなどを披露する。ロボット領域でも、多数のセンサーを使用するため、センサーフュージョンシステムが不可欠であり、RTMapsのメリットを発揮できると考えている。

テスト/開発規模の増大に対応するツール開発を強化

――製品開発状況を教えてください。

宮野氏 自動運転システム検証のテスト工数は、従来のACC(アダプティブクルーズコントロール)の106倍必要であるとされ、膨大なテスト量となる。1000台のPC/テスターを並べて実時間の1000倍のスピードでテストするといった解決策もあるが、今後更にシステムが複雑になる事を考えると次のステップが必要である。そこで、AIを活用し、安全性、信頼性を担保しながらテスト工数を削減するテストシナリオを生成する技術の開発を進めている。テスト結果などからAIが次のテストシナリオを生成し、効率良く、テストを行えるようにするものだ。まだまだ開発段階であり提供時期は分からないが、テスト量が膨大になる中でも、確実なテストを実施できる解決策を提示していく。

 また、テスト量と同時に増えるテストデータの扱いを容易にするデータベースも提供しておりこれを進化させる予定である。これまで、要求に対するテスト結果データは、ALM(アプリケーション・ライフサイクル・マネジメント)ツールなどで管理することが一般的だが、モデルの管理などを行うにはカスタマイズする必要があるなど、手間がかかった。そこで、モデルベース開発に応じたデータベースを開発し、提供している。このデータベースでは、単なるモデルの管理だけでなく、「どのモデルからコンパイルされたソフトウェアか」、試験に使われたパラメータは何かなどモデル、ソフト、パラメータ、試験結果をひも付けるなども簡単に行え、テスト結果データを詳細、かつ、包括的に扱えるようになっており、上記AIによるテストシナリオ生成と組み合わせ、モデルベース開発をさらに効率よく進めることができる。

モデルベース開発の普及に向けて

――自動車開発におけるモデルベース開発は、かなり普及してきましたね。

宮野氏 新たに自動車に搭載される新機能などの開発現場の多くで、モデルベース開発が導入されている。ただ、完全にモデルベース開発が普及したと言える状況にはまだ達していない。特に日本国内では、欧州に比べ、普及率は低いと考えている。

――既存ECUなどの開発では、まだまだモデルベース開発が浸透していないということですか。

宮野氏 はい。エンジンやトランスミッションなどの開発では、従来のCコードベースの開発が継続されているケースが多い。実績があり、優れたソフトウェア、プログラムが存在する中で、モデルベース開発という新たな開発手法を導入するには抵抗があるのは、理解できる。「ソフトウェアは劣化しないから、そのままで良い」とおっしゃる方も多い。

 機械部品などと違いソフトウェア自体は劣化しないが、ソフトウェアの周囲は絶えず変化するため、結果的に“ソフトウェアは劣化する”と考えている。インタフェースなどの変化に対応するためには、絶え間なくソフトウェアを対応させていく必要があり、連動する他のソフトモジュールの変更など、変化の激しい昨今では、その開発が煩雑になりつつある。モデルベース開発を導入するメリットは大きくなっている。

dSPACEツールによる車載ソフトウェアの開発

――そうしたレガシーの領域でのモデルベース開発導入に対し、どのようなサポートを行っていますか。

宮野氏 自動車業界でモデルベース開発経験を有する複数のエンジニアで構成するコンサルティングチームを設け、各開発現場に応じたコンサルティングを交えながら、モデルベース開発の導入を支援している。2016年ごろから、コンサルティングチームの活動を始めたが、着実に実績を積んでおり、引き続き、展開していく。

 サポート体制としては2018年に、国内4拠点目となる西日本営業所(大阪)を開設した。これまで以上に西日本地区の顧客に対し、きめ細かな製品導入サポートなどを提供できるようになった。

――モデルベース開発導入には、モデルベース開発を活用できる人材の育成も重要です。

宮野氏 dSPACE Japan独自の取り組みとして技術者トレーニングプログラム「MBDエンジニア育成プログラム HILシミュレータ操作技術者」を実施している。5日間にわたってモデルベース開発のトレーニングを行い、各開発現場でモデルベース開発をけん引することのできるコア人材の育成を目指すトレーニングになっている。こうしたトレーニングを充実させて、人材育成面でも貢献していきたい。


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提供:dSPACE Japan株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2019年2月15日



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