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» 2016年07月19日 11時30分 公開

世界を「数字」で回してみよう(32) 人身事故:だから減らない? 鉄道への飛び込みは“お手軽”か (6/8)

[江端智一,EE Times Japan]

“コスト感”を考える

 以下の表は、第三者への迷惑を一切考慮しない場合における、自殺のコストの簡単な比較を行ったものです。

 今回、いろいろな書籍や資料を読みまくったのですが、「自殺を完遂するまで(×した後)のコスト」において、絶対に採用してはならない手段が「クスリ」であることを、私は初めて知りました。

 「クスリ」は最低にして最悪の自殺手段です。

 戦後25年間は、「クスリ」は便利な自殺手段として、非常にポピュラーでしたが、その後、劇的に少なくなっていきます。

 これは、「クスリによる自殺」が減ったのではなく、「クスリ」に自殺防止の成分が組み込まれたからです。

 具体的には、睡眠薬ハルシオンで死ぬためには100万錠以上の摂取が必要といわれています。

 実際にクスリの重さを図ってみたら、1錠0.2g程度でしたので、ハルシオンによる致死量は200kgになります(クスリの「食い過ぎ」で死ぬ)。

 市販薬であっても、100〜1000錠単位で摂取すれば致死量にも至れる場合もあるようですが、「眠るような死」どころか、呼吸困難、嘔吐(おうと)などの苦痛で七転八倒し、一週間以上苦しんだ揚げ句、脳に後遺症を残して生き残る、という最悪のケースが待っています 。

 農薬などで自殺を図る人の場合は、消化器官をボロボロに溶かされる激痛で転げ回りながら、しかも、解けた消化器を回復するような手術はできないので、文字通り死ぬほどの苦痛を数日間体験し続け、まあ、最終的には死ぬこともできるようですが ―― どう考えたって、「高すぎる自殺コスト」と言わざるを得ません。

 これに対して、「首吊り自殺」は、道具としてはロープがあれば足ります。

 しかし、私は今回、自宅の中でロープを下げられる場所を探してみたいのですが、これが本当に「見つからない」。

 昔の建物なら、天井に剥き出しになった梁(はり)とかあったものですが、しかし、わが家のような「2X4工法」(箱状になった部屋を運んできて、現地で組み立てる)で作られている家屋は、ロープをひっかけられるような適当な固定箇所がないのです。

 首吊り自殺の苦痛については、実際に日本の死刑で用いられていることもあって、実際に「残酷であるかどうか」が最高裁判所で争われました。「苦痛はなく、残酷ではない」という判断がされていますが、この話も、非常に興味深い話ですので、次回以降にご紹介します。

 一方、「飛び降り自殺」は比較的コストが安いです。

 ただ、自殺するための場所を確保すること、自殺のタイミングが自分に委ねられていること、そして地面に到着するまでの時間が比較的長いこと(恐怖を感じる時間が必要となること)に、難点があります。

 それと、学校の校舎(25m)を落下するだけで、最終的に時速80km(秒速22.1m)で、目の前に地面が迫ってくるという恐怖も、ちょっといただけません。

 これらに比べると、鉄道を使った飛び込み自殺はパラダイスです

  • 日本にある全ての鉄道駅(約9000駅)全部が、自殺の候補地になり、深夜を除けば常に営業中
  • 自殺を妨げる障害物(ホームドアなど)は、ほとんどの駅では設置されておらず、自殺を思い立ったら、即断即決で実行可能。ホームセンタやドラッグストアで、ロープやら薬を購入する必要もない
  • 現地視察や、特別な体力や技量は不要。ホームからレールに落ちていくだけで足り、失敗さえしなければ、苦痛を感じる時間もなく瞬時に死に至れる

 人身事故で電車に閉じ込められた人の多くが

自殺の方法はいろいろあるのに、なんで、わざわざ電車を使うんだ

と激高されていると思いますが、自殺を試みる側からすれば(自殺後の処理の一切を考えないとすれば)、

なんで、わざわざ電車以外の手段を使わなければならないんだ

と主張したくなるくらい、鉄道を使った飛び込み自殺はコスト(初期投資 + 実施手段 + 苦痛のトータルコスト)が安い

 つまり、自殺したい人々にとって、鉄道を使った飛び込み自殺は最適戦略なのです。

 最適戦略である以上、今後、鉄道を使った自殺が減っていくことは期待できません。日本の自殺数が減っている中、飛び込み自殺だけが減少していかないのは、極めて自然と言えます。

前回のグラフの再掲

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