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» 2019年11月07日 11時30分 公開

大山聡の業界スコープ(23):マーケティングオートメーションが半導体商社を危機に追い込む現実 (2/2)

[大山聡(グロスバーグ),EE Times Japan]
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日本市場における半導体商社の栄枯盛衰

 下図は、半導体商社各社の2018年度(2019年3月期)の売上高を比較したものである。半導体や電子部品だけでなく、システムや電子機器なども取り扱っている商社が多いが、メガディストリビューターと呼ばれるArrow、Avnet、WPGに比べて、日系商社は規模が小さく、成長率の低い日本市場に多数乱立していることが分かる。

半導体商社各社の2018年度売上高比較 出典:各社決算資料よりGrossberg作成
HLDG=ホールディングス。レスターHLDGの値は、UKCおよび、バイテックの合計値。

 この点をもう少し追記すると、日系半導体メーカーの隆盛期(1990年代半ばまで)は、系列商社の規模が相対的に大きく、日立セミコンデバイス(日立系列)、リョーサン(NEC系列)、菱洋エレクトロ(三菱電機系列)などが日本市場における首位の座を争っていた。外資系半導体を中心に扱う独立系商社としては、丸文、東京エレクトロンデバイスなどが健闘していた。ただ、外資系半導体が需要全体の20%程度しか占めなかった日本市場において、売上規模は系列商社大手の半分にも満たなかったのである。

 しかし2000年以降は日系半導体メーカーが低迷しはじめ、系列商社の売上高も大幅減を余儀なくされた。「系列社の製品だけ扱っていれば良い」というスタイルも通用しなくなり、外資系半導体の取り扱いに積極的にならざるを得なかった。一方で外資系半導体の需要は相対的に伸び始め、独立系のマクニカや加賀電子などが売上高ランキングの上位に名前を連ねるようになった。

海外市場はメガディストリビューターに集約

 一方の海外市場では、90年代からArrowとAvnetによるM&Aが加速し、同業者の多くがこの2社のいずれかに吸収合併された。両社とも売上高が1兆円規模を超えたあたりから、多くの半導体メーカーの売上規模を上回るようになり、半導体メーカーに対する交渉力も強くなった。2005年に設立されたWPGも、鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)などEMS(電子機器受託生産サービス)企業向けの対応力を強化しながら中国や東南アジア地域でM&Aを繰り返し、メガディストリビューターの仲間入りを果たした。

 メガディストリビューターの各社は大きな売上規模を誇るが、いずれも日本市場での実績が乏しい。Avnetは10年ほど前から日系商社の買収を繰り返して日本市場の取り込みを図っているが、苦戦を強いられている。Arrowもやはり10年ほど前に日本法人を設立したが、特に目立った動きは見られない。では、メガディストリビューター各社が日本市場で苦戦しているのは、日系商社各社にとって安心できることなのだろうか。

日本でも、海外でも厳しい立場に置かれる半導体商社

 冒頭に「マーケティングオートメーションが半導体商社を危機に追い込む」と述べたが、規模の大小に関わらず、卸売業を生業とする商社の立ち位置は日本でもグローバルでも厳しくなりつつある。半導体メーカーによるマーケティングオートメーションの実用化は、確実に商社の付加価値を奪いつつあるのだ。例えば世界中に10万社の顧客を抱えるTIは、かつては直販による顧客管理の限界を公言し、商社との連携の重要性を主張していた。だが、「My TI」と呼ばれる顧客向け自社運営サイトをフル活用するなど、従来商社任せにしていた作業やプロセスを自社内に取り込む動きを加速させている。そして「商社は営業活動をしなくても良い。物流業務に専念してほしい」と発言するレベルまでに至った。

 営業活動には広告宣伝や顧客サポート費用など、さまざまなコストが発生するものの、商社としての付加価値を主張できる部分なので、これを行うために10%を超えるマージンをメーカーに請求するのが普通である。しかしその付加価値が認められなければ、マージンは5%程度に減額される。Avnetのケースで言えば、20億米ドルのTI製品売上に対してマージンが2億米ドル以上なのか、1億米ドル前後なのか、という巨額の違いに発展するのだ。Avnetにしてみれば、自分たちの営業活動を認めてもらった上で、10%以上のマージン維持を望んでいたに違いないが、TIはそれを認めず、物流業務だけを任せるどころか、代理店契約を破棄して直販に切り替えることを選択した。

 WPGは会社全体の粗利率が4.3%と低く、TIの場合でも物流業務に徹しながら対応してきたはずだ。だが、これも直販に切り替える選択肢が取られた。EMS相手の商売は納期やロットサイズの変更が日常茶飯事なので、こうした対応に慣れた商社に任せた方がラクだし安全だ、と一般には考えられてきた。しかしTIはそれさえも自社で行った方がメリットがある、と判断したのだろう。

 TIだけでなく、NXP Semiconductorsも同様に動く可能性がある。他の半導体メーカーもこの動きに追随するようであれば、今回の代理店リストラを「一過性の問題」と断じるわけにはいかない。半導体メーカーがマーケティングオートメーションを常態化させて、今まで商社任せだった作業を取り込むようになれば、商社が付加価値を主張できる部分は削り取られる一方である。

 丸文に限らず、大型の商権を失った商社は今後どうすべきなのか。筆者としてはいくつか提案したいこともあるが、ここで述べると長くなるので、機会を改めて述べたいと思う。商社の皆さんとも、引き続き議論を重ねさせていただきたいと願っている。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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