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CASE時代のクルマ産業、ボトルネックになり得る半導体は何か湯之上隆のナノフォーカス(22)(1/4 ページ)

CASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)の波が押し寄せている自動車産業。それに伴い、1台当たりのクルマに搭載される半導体の量も増加の一途をたどっている。では、そんなCASE時代の自動車産業において、“ボトルネック”となり得る半導体とは何か。

» 2020年02月18日 11時30分 公開

部品一つ欠けるだけでクルマは作れない

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 2011年3月11日に東日本大震災が発生し、ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)那珂工場(茨城県ひたちなか市)が被災した。クリーンルームはズタズタになり、多数の装置が転倒するなど、甚大な被害が出た。その結果、那珂工場では車載半導体(マイコン)が製造できなくなり、トヨタ自動車は「プリウス」を1台も生産できなくなった。

 小さなマイコンが一つないだけで、クルマをまったく製造できなくなってしまったのである。それ故、トヨタ自動車とデンソーは1日当たり2500人体制で、那珂工場の復旧を支援した。その甲斐(かい)あって、3カ月前倒しして、6月初旬から那珂工場でマイコンが製造できるようになった。

東日本大震災発生直後の那珂工場クリーンルーム内の写真 出典:ルネサス エレクトロニクス

 現在、中国湖北省の武漢から感染が拡大し始めた新型コロナウイルス(COVID-19)が世界中に猛威を振るっている。本原稿を書いている2月14日現在*)で、感染者数は6万4158人、死亡者数は1383人になった(図1)。一体どこまで感染が拡大するのか、一市民として恐怖を感じる。

*)編集注:2020年2月17日の時点で、感染者数は7万1324人、死亡者数は1775人と発表されている。

図1:新型コロナウイルスの感染者数と死亡者数(〜2020年2月14日) 出典:日経新聞「コロナウイルス感染 世界マップのデータを基に筆者作成

 そして、感染者拡大の影響により、物量は寸断され、人の移動も制限されて、各種産業のサプライチェーンに甚大な被害が出始めている。クルマ産業でいえば、中国からの部品が調達できなくなった日産自動車の九州工場は、操業停止を余儀なくされている(日経新聞2月14日)。

 このように、2〜3万点の部品から構成されるクルマは、一つの部品が調達できないだけで完成車が生産できなくなる事態に陥る。

 現在、クルマ産業には、CASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)の大津波が一挙に押し寄せてきており、クルマは100年に1度の大変革期に突入しているという。クルマに使われる半導体の数や種類は年々増加の一途をたどっているが、CASE時代のクルマには、どのような半導体がどれだけ必要になるのだろうか?

 特に、“C”と“A”、つまりコネクテッドされた自動運転車にとって、どの半導体がボトルネックになるだろうか? 本稿では、この問題を分析してみたい。突き詰めて考察した結果、それは意外な半導体であることが判明した。

自動運転のレベル

 まずは、自動運転のレベルについて確認しよう(表1)。

表1:自動運転のレベル 出典:内閣官房IT総合戦略室を参考に筆者作成(クリックで拡大)

 「レベル0」は、ドライバーが全ての運転操作を行う。いうなれば、“完全手動運転”である。

 「レベル1」は、“運転支援”と呼ばれる。基本的にドライバーが運転操作を行うが、「加速・減速(前後)」または「ハンドル操作(左右)」のいずれかの車両操作をシステムが支援する。ただし、クルマの周囲の認識や非常時の対応はドライバーが行う必要がある。

 「レベル2」は、“部分自動運転”と呼ばれる。基本的にドライバーが運転操作を行うが、「加速・減速(前後)」または「ハンドル操作(左右)」の複数の車両操作をシステムが支援する。しかし、「レベル1」と同様に、クルマの周囲の認識や非常時の対応はドライバーが行わなくてはならない。

 「レベル3」は、“条件付き自動運転”と呼ばれる。システムが周囲を認識した上で、システムが全ての運転操作を行う。クルマの運転の主役が、ドライバーからシステムに移行する。ただし、システムに障害が発生したり、決められた走行領域を外れたりした場合は、ドライバーが運転をする。

 ドイツのMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)、Audi(アウディ)、米Tesla(テスラ)、トヨタ自動車などが既に「レベル3」を発売している。また、ことしはホンダ(本田技研工業)が「レベル3」の「レジェンド」(約1000万円)を発売する。

 「レベル4」は、“高度自動運転”と呼ばれる。システムが、周囲認識、運転操作、システム障害の全てに対応する。従って、ドライバーは何もする必要がなく、“ほぼ自動運転車”になる。ただし、現状では、高速道路、自動運転が認められた地域や場所など、自動運転のエリアが限られる。

 「レベル5」は、“完全自動運転”と呼ばれる。「レベル4」で付加されていた条件が取り払われ、いつでも、どこでも、自動運転が可能となる。

 以下では、ドライバーが不要になる「レベル4〜5」の自動運転車に焦点を当てる。その自動運転車には、どのような装備や半導体が搭載されるのか?

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