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» 2020年08月31日 10時30分 公開

踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(5)量子コンピュータ(5):量子もつれ 〜アインシュタインも「不気味」と言い放った怪現象 (5/9)

[江端智一,EE Times Japan]

「ベルの不等式=成立」の場合

 さて、ここから、再度、ベルさんにご登場いただきます。

 ベルの不等式のすごいところは、「量子に局所性があるなら、不等式は破れない=アインシュタインさんの勝ち」、「量子の非局所性が成立するなら、不等式は破れる = ボーアさんの勝ち」という図式を、明快に示す点にあります。

 (ちなみにベルさんは、アイシュンタイン派「量子論は不完全」の方に属していたようです)

 ちょっと気を付けていただきたいのは、ベルさんは、この「ベルの不等式」を考えましたが、実証実験の方式(つまり、実験装置の作り方)までは提示していなかった、ということです。

 つまり「こういう実験ができれば、勝敗が付くはずだ」という可能性を、数式で示したものです。そして、現実の実証実験には、さらにここから8年の月日が必要でした(後述)。

 では、まずは「ベルの不等式」を使って、アインシュタインさんが正しいと仮定した場合の話から始めます。

 電子のスピンとは、(詳しい話は省略しますが)基本的には、「概念」です。光速で移動している電子に回転があるとすれば、その回転速度は光速を超えてしまって、理論的に破綻してしまうからです。

 ですが、「スピンがある」として考えると、”電子に影響を与える”or”電子が作りだす”電場や磁場の影響をスッキリ説明できて、かつ量子論的にも矛盾が発生しないので、今回は、「スピン」を使って説明を強行します(というか、私(電子工学科出身)は、それ以外の方法では説明できません)。

 電子のスピンには(前述の”上向き”と”下向き”の)2つ、あるいは3つ、または4つとか、いろいろな考え方があります。今回の説明では3つのスピンを採用します。これはx,y,zとの3軸方向でのスピンと考えれば分かりやすいです。

 x軸方向に上向きのスピンを、”A↑”と、下向きのスピンを”A↓”と記載します。同様に、Y軸方向は、”B↑”、”B↓”、Z軸方向は”C↑”、”C↓”と記載することにして、その3つのスピンを(↑、↓、↑)などと記載することとします。この組み合わせは8(=2x2x2)通りになります。

 先ほどお話した通り、分離させられた電子のスピンは、かならず逆方向になりますので(直感的にも分かりますよね)、例えば、一方の電子のスピンが(↑、↑、↑)ならば、もう一方の電子のスピンは、測定するまでもなく(↓、↓、↓)となっているハズです。この対となるペアを記載したのが以下の図です。

 ここで、電子のスピンを測定する測定器の一つは、地球上にある江端家にあり、もう一方の測定器は、江端の出張先の木星大気圏探査艇の中にある、と仮定します(あくまで、思考実験です)。

 木星と地球の中間地点くらいで、電子対から分離した電子を、膨大な数、ランダムな方向にぶっぱなし続けるとします(電子の量子状態の時間(コヒーレント時間)は無視します)。

 その(気の遠くなるほどの小さい確率で到着した)一部の電子を、地球と木星の両方で、とにかくカウントし続けるとします。

 地球上でX軸を観測して上向き(↑)となり、木星軌道上でY軸を観測して上向き(↑)となるような確率Pは、

と、表せます。ならば、P(B↑、C↑)も、P(A↑、C↑)も同様に表せるハズです。

[Tさんツッコミ!]この式の意味が分かりにくい気がします。PはP(地球、木星)の測定結果になる確率で、nはn(地球X、地球Y、地球Z)の測定結果で、nはその場合の数、Nは全部の場合の数(8ケース)ですね。地球と木星で色分けするとよいかもしれません。

(というアドバイスを頂きましたので、以下、地球は水色で、木星はピンクで示します)

 ここでは、スピンの方向がX,Y,Z軸と記載したので、あたかもスピンが直交しているように見えるかもしれませんが、このX,Y,Zは、全く同じ軸(角度0°)でなければ、どの方向に向いていたって構わないものとします。

 もし、X,Y,Zがキレイに直交していなければ、n1〜n8回の個数は、平均的にはならず、かなり偏ったものになるかもしれません(例えば、n3=0, n6=0というような極端なケース)が、それでも、この不等式が破れることはありません*)

*)試しに、n1〜n8に好きな数(0以上の整数)を入れて計算してみて下さい。

 ベルさんのすごいところは、「もし確率に基づく量子論が成立するなら、この不等式を破れる」ということを示したということです*)

*)私には、ベルさんが「できるものなら、この私の不等式を破れる実証実験結果を見せてみな!」と、ボーア派を挑発しているように見えました。

 では、次に「ベルの不等式」を使って、ボーアさんが正しいと仮定した場合の話から始めます。

 こちらでは整数は登場しません。徹頭徹尾、確率(%)を使います。

 この式の意味は意外に簡単です。

 これは、片方の量子の回転が反転(180°)する確率が1/2になることを示す式である点では、「アインシュタインさんが正しいと仮定した場合」と同じです。

 しかし、この式では、確実な反転(180°)だけではなく、中途半端な反転である、179°も181°の存在はもちろん、123°だって、32°だって、下手すれば、0°の可能性すら、「確率は小さくなるけど、それでも存在するハズ」を示す式になっています ―― まさに「確率に基づく量子論」を体現している式と言えます。

 故に「量子論が正しい」を証明するには、ベルの不等式の反例が一つ見つかれば十分なのです。

 で、実際に、ある特定の条件下(図中の例では、θABBC=θ、θAC=2θとして式を組み立てています)では、ベルの不等式が破れる値が、バッチリ存在するのです。

 だからベルさん(アインシュタイン派)の、ボーア派への挑発(?)とは「実証実験で、この不等式の反例を1つでもいいから、見つけてみやがれ」ということになるのです。

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