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» 2016年11月29日 11時30分 UPDATE

Over the AI ――AIの向こう側に(5):沈黙する人工知能 〜なぜAIは米大統領選の予測に使われなかったのか (8/9)

[江端智一,EE Times Japan]

「相手」が悪すぎた!?

 さて、このコラムの冒頭で、私は、「2016年の合衆国大統領選挙は、『ビッグデータ解析と予測技術("人工知能技術"を含む)の完全敗北』であると判断した」と申し上げましたが、この見解を、以下のように変更します。

 合衆国大統領選挙は、そもそも、その仕組みの性格上、予測不可能であり、人間はもちろん、ビッグデータであろうが、"人工知能技術"であろうが、到底太刀打ちのできる対象ではない。

 そりゃ、人工知能を取り扱うメーカーやベンチャーが、大統領選の予測に対して完全な沈黙を決め込んでいたのは当たり前でしょうし、今回、ネイト・シルバーさんが予測を外してしまったのも、至極当然と言えます。

 詰まるところ ―― 相手が悪すぎたのです。


 それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。

【1】今回の2016年合衆国大統領選挙では、民主党のクリントンさんと共和党のトランプさんの一騎打ちに。結果、世界中の予想を裏切り、共和党のトランプさんが当選を確実にしました。

【2】しかし、このトランプさんが当選を予測した"人工知能"は見あたらないばかりか、そもそも、合衆国大統領選挙の予測を試みたという"人工知能技術"の製品やサービスすら見当たらないことも分かりました。

【3】そこで、合衆国大統領選挙の仕組みを調べ、力づくのシミュレーション結果を行った結果、この大統領選は、多数決の民意を反映しにくい「ギャンブル性」が極めて高い方式になっており、現状の"人工知能技術"では、到底太刀打ちできそうなものではないことが分かりました。

【4】なぜ、このような「気持ちの悪い」選挙制度を、米国国民が維持している理由を考察した結果、米国人には、日本人の考え方とは根本的に異なるリーダー像がある、という自分なりの結論を得ました。


「数字の敗北」は珍しいことではない

 「数字が敗北する」ことは珍しいことではありません。特に「("人工知能技術"などによる)予測の数字」の勝率は、決して高くはありません。

 最近では、各国政府もシンクタンクもデータアナリストも、英国のEU離脱についての投票結果の予測も、豪快に外しています

 さらには、(もう多くの人が忘れているかもしれませんが)、2011年の東日本大震災の際、政府が「SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)」のシミュレーション結果の発表を差し控えたことからも、予測(を公表することと、そしてそれが外れた時)の「恐怖」もよく知っているのです(参考)。

 ぶっちゃけ、"人工知能技術"などによる数字が威力を発揮するのは「過去の数字」であり、「過去に起こった出来事(特に、訳の分からないような結果になった時)を、筋の通ったストーリーに(後出しジャンケンのように)組み立てるとき(=仮説構築)」には、威力を発揮します。

 しかし、その「後出しジャンケンの仮説」についても、それが正しいかどうかを知る手段はないのです。この「仮説」の意義は、多くの人が、後から「ああ、なるほど、そういうことか」と納得できるストーリーが作れる(かもしれない)、という、その1点にのみ価値があるのだと、私は思っています。

 つまり、ビッグデータ解析や人工知能は、(その対象にもよりますが)

(1)頻繁に予測を外すが
(2)その「外した理由」を説明するためのストーリーメーカーとしては優秀である

ということは言えそうです。


 では次回は、今回の予定であった「ベイジアンネットワーク」を解説したいと思います。来月も、よろしくお願い致します。

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