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SEMICON Japan 2018 特集

製造装置の国産化を加速する中国半導体開発だけではない(3/4 ページ)

» 2018年08月09日 11時30分 公開

ArF露光装置を中国が試作?

 一部の記事では、中国が製造装置の育成に本気になっていることを論じた上で、「ArF露光装置の試作に入っているという情報もある」と報道されている。

 これに筆者は仰天した。中国企業がドライエッチング装置やCVD装置などをデッドコピーしている話は10年位前から知っていた。しかし、製造装置の中でも、最も精密で高価な露光装置を中国が試作しているとは、にわかには信じられない思いがする。

 筆者が同志社大学に新設された経営学研究センターの専任フェロー(現在の特任教授のような職位)だった2003〜2008年頃、東芝のリソグラフィ部門の東木達彦部長(当時)にヒアリングをしたことがある。

 東木氏は、『露光装置とは、人類が生み出した最も精密で高価なマシンであり、「まさに“兵器”だ」』と語った(日本ビジネスプレス2010年9月24日)。現在、市場シェア86.9%を独占しているASMLのArF液浸露光装置は、フルスペックで100億円と聞いている。

 そのような露光装置を、中国が試作しているというのは本当なのだろうか?

中国製の露光装置の現状

 中国に、Shanghai Micro Electronics Equipment(SMEE)という装置メーカーがある。SMEEのWebサイトには、i線の露光装置「モデルSSB600/10」、KrF露光装置「SSC600/10」、ArF露光装置「SSA600/20」が、同社Webサイトの「Products」内にある「IC Area」のページに掲載されている。これらは既に、SMICなどで使われていると推測される。

 そして、うわさでは、SMEEは、ArF液浸露光装置を全力で開発している模様である。有識者によれば、「レンズなどの光学系が最も大きな課題であり、早ければ3年後、遅くとも5年後には、できてしまうかもしれない」という。

図3 中国のSMEEが商用化している露光装置(クリックで拡大)

エッチャー、CVD、PVD、熱処理装置、洗浄装置

 露光装置以外の装置はどうなっているのだろうか。

 中国のNAURAという装置メーカーのWebサイトにある「Semiconductor」のページには、「等离子刻蚀设备 Etcher」「物理气相沉积设备 PVD」「化学气相沉积设备 CVD」「氧化扩散设备 Oxide/Diff」「清洗设备 Cleaning Tool」「紫外固化设备 UV Cure」などの装置が記載されている。

 各装置の説明が中国語であるため、詳細は分からないが、相当多くの装置が中国には既にあると思って間違いないようだ。

 では、これらの装置は、果たして本当に最先端の半導体の製造に使えるようになるのだろうか(または、なっているのだろうか)? 筆者の知人の有識者に、意見を聞いてみた。

ドライエッチング装置

 エッチング工程は、ラフパターンを加工する工程と、微細パターンを加工する工程(クリティカル工程と呼ぶ)に分けられる。クリティカル工程としては、例えばロジック半導体では、FinFETの微細なフィンの加工や微細メタル配線、メモリでは、3次元NANDフラッシュの高アスペクト比のメモリホールの加工や、DRAMのキャパシター用シリンダの加工などが挙げられる。

 ドライエッチング装置メーカー大手の有識者によれば、中国のNAURAのような装置メーカーのドライエッチング装置は、ラフ工程の加工には対応できるかもしれないし、現在も使われている可能性は高い。しかし、クリティカルな工程を加工することは困難だろう。向こう10年間、無理ではないか。

 なぜ、最も精密なArF液浸の露光装置が3年から5年で開発できて、ドライエッチング装置は向こう10年無理かというと、露光装置はハードウェアへの依存度が高いが、ドライエッチングではハードウェアをまねても最適なプロセスを構築するのが困難だからだ。

 プラズマという多体問題から最適解を得るために、十数以上のパラメータを調整し、それと同時に、エッチングチャンバの部品の形状や材料も最適化しなくてはならない。それ故、5〜10年程度では、中国がクリティカルな工程用のドライエッチング装置を開発するとは思えない。

 ところが、上海に本社を置くAdvanced Micro-Fabrication Equipment(AMEC)という製造装置メーカーのWebサイトには、ドライエッチング装置「Primo AD-RIE」が22nm以下の微細加工に対応できると掲載されている。もし、その記載通りなら、現在の世界の最先端が10〜7nmであることを考えると、かなり最先端に近い実力を有していることになる。

 もしかしたら、筆者の知人の予想より早く、中国メーカーがクリティカルな工程に進出してくるという可能性もある。

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