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単分子誘導体を開発、記録密度を1000倍以上にテラビットからペタビット時代へ

広島大学の研究チームは、室温で強誘電性(メモリ効果)を示す「単分子誘導体(SME:Single Molecule Electret)」の開発に成功した。記録密度を従来の1000倍以上に向上させることが可能となる。

» 2018年08月14日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

室温でメモリ効果を示す分子を初めて開発

 広島大学大学院理学研究科の西原禎文准教授と加藤智佐都博士らを中心とする研究チームは2018年8月、室温で強誘電性(メモリ効果)を示す「単分子誘導体(SME:Single Molecule Electret)」の開発に成功したと発表した。SMEをメモリに応用すると、現行の強磁性体メモリに比べて、記録密度を1000倍以上に向上させることが可能となる。

 情報記録材料に強誘電体を組み込んだ製品としては、「FeRAM」などが実用化されている。ところが、強誘電体は一定のサイズより小さくなると、熱ゆらぎによって分極方向を保持できなくなるため、微細化に限界があるなど課題もあった。

 研究チームは今回、新たな機構を開発し、単一分子で自発分極と分極ヒステリシスを発現させることに成功した。広島大学は、「室温でメモリ効果を示す分子の開発は世界で初めて」と主張する。

 この現象が観測されたのは、30個のタングステン、110個の酸素、5個のリン原子からなる無機分子「Pleyssler型ポリオキソメタレート」である。内部には筒状の空洞があり、この中には安定サイトが2箇所存在する。このいずれかに、1つのTb3+(テルビウムイオン)は格納される。Tb3+がもう一方の安定サイトに移動することで、分子分極の反転が起こるとみられている。

上はポリオキソメタレートの構造。下は分子分極の反転が起こるイメージ 出典:広島大学

 分極反転エネルギー(UE)より、十分に低い温度領域ではTb3+が移動できず、分子分極は凍結される。この温度域で電場を印加すると、イオン移動を強制的に誘起することができ、分極反転が起こる。

 実際には材料が強誘電移転を示していないのに、室温以上で分極ヒステリシスや自発分極を示すことが分かった。この分子を高分子内に分散させて、分子間相互作用をなくした状態であっても、自発分極と分極ヒステリシスを確認することができたという。

誘電率測定から見積もった誘電損失の温度依存性 出典:広島大学
290Kにおける分極ヒステリシスの電圧依存性 出典:広島大学
自発分極の温度依存性を示す図 出典:広島大学

 これらの実験結果から、Tb3+を内包したPleyssler型ポリオキソメタレートは、単一分子でありながら、強誘電性を示すことが明らかとなった。今回開発した物質をメモリとして実装すれば、理論的には記録密度が1P(ペタ)ビット/平方インチに達すると算出されている。これまで、平面記録密度は1T(テラ)ビット/平方インチが上限といわれてきた。今回の研究成果はこれを1000倍も上回っており、記録装置のさらなる小型化を可能にするものである。

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