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» 2017年02月28日 11時30分 UPDATE

Over the AI ―― AIの向こう側に (8):陰湿な人工知能 〜「ハズレ」の中から「マシな奴」を選ぶ (7/10)

[江端智一,EE Times Japan]

チキンレースの必勝法と国家戦略

 チキンレース開始後に、<長女>が自分のハンドルを引っこ抜いたところを、<次女>に見えるようにしてやればよいのです。こうすることで、<長女>は自動車のコントロールができなくなったことを<次女>にアピールすることができるので、<次女>はハンドルを切って逃げるしかありません。つまり「<長女>必勝」を導くことができるのです。

 つまり、自分を最悪の状態に置くことで、最良の結果を導くことができるのが「チキンレース」の特徴となります。

 ですが、<長女>が自分のハンドルを引っこ抜いた時、<次女>もハンドルを引っこ抜いてしまっていた、というケースが絶対にないとはいえません。この場合、このゲームは双方にとって最悪の結果(両者死亡)で終わります。つまり、チキンレースの必勝法は、最悪のケースを包含していることを忘れてはなりません。

 ところが、「チキンレースの必勝法における最悪のケース」には、まだ続きがあるのです。

 例えば、<長女>が、「死んでも構わない」というマインドを持っている場合です。ケースとしては、うつ病でも、失業でも、失恋でも、末期がんでも、なんでも良いのですが、とにかく、守るべきもの(自分の命)の価値を「ゼロ査定」するという腹のくくり方ができれば、最強です。

 ところが、この「チキンレース」の「ゼロ査定」戦略を、国家の国防戦略として位置付けている国があるのです。ここでは代表的な2つの国を紹介します。

 北朝鮮については、今更説明するまでもないと思いますが、パキスタンの核戦略は私にとって衝撃でした。

 アメリカ合衆国で、核ミサイルのスイッチは(原則として)1つだけで、そのスイッチを押せるのは、合衆国大統領だけです(最近の大統領の交代で、かなり不安になってきていますが)。ところが、パキスタンでは、現場の指揮官の数だけ核ミサイルのスイッチがあり、現場の指揮官の判断だけで核ミサイルのスイッチを押せる状態にあるのです(政府や国会の承認不要)。そして、それを、相手側(インド)にも報せています。

 つまり、核ミサイル発射について、恐しく不安定な意思決定システムを、あえて採用することで、威嚇力を発揮しているわけです。つまり、ささいな局地戦だけでも、核戦争がぼっ発するぞ、と警告しているのです。

 これは、究極の「チキンレース」であり、しかも、問題なのは、間違いなく、私たちもこのレースの参加者として巻き込まれる、ということです(私は、いつでもこのシミュレーションが、頭の中によみがえってきてしまいます)

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