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10nmで苦戦するIntel、問題はCo配線とRuバリアメタルか湯之上隆のナノフォーカス(9)(5/5 ページ)

» 2019年02月18日 11時30分 公開
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tCoSFBとは

 IBMが開発したtCoSFBプロセスを、図6を用いて説明する。

図6 Coを介したMnのセルフフォーミングバリア(tCoSFB) 出典:T.Nogami(IBM)「VLSI 2017」の資料より(クリックで拡大)

1)極めて薄いTa(N)を成膜する。このTa(N)は、薄すぎるため、所々、穴がある。しかし、密着材として機能する。次に、CoをCVDで成膜する。最後に、CuMnのシード層を形成する
2)Cuの電界めっきを行い、配線溝をCuで埋め込む
3)CMPで不要なCu、Co、Ta(N)を除去する
4)その後、アニールすると、Cuの中のMnが、Coを貫通して、Ta(N)の穴に析出し、絶縁膜の酸素と結び付く。これを「かさぶたプロセス(Scab Process)」と呼ぶ

 以上の結果、極めて薄いTa(N)(穴はMnが塞いでいる)とCoのバリアメタルが形成される。tCoSFBの要点は、Mnが酸素と結び付きたがる特徴があること、そしてMnが(なぜか)いとも簡単にCoを貫通すること、にある。

 さらに、tCoSFBによるバリアメタルによりCuの微細配線は、何と、Co配線よりも、配線抵抗が小さくなることを、IBMの野上氏が2017年のVLSIシンポジウムで明らかにしている(図7)。

図7 tCoSFBによるバリアメタルによりCuの微細配線がCo配線より配線抵抗が小さくなることを示した資料 出典:T.Nogami(IBM)「VLSI 2017」の資料より(クリックで拡大)

 Samsungは(もしかしたらTSMCも)、IBMが開発したtCoSFBによるバリアメタルを用いたCu配線を使うことにより、微細配線の抵抗増大の問題を回避している可能性がある。

Intelの10nmプロセス立ち上げの見通し

 半導体業界が、2018年に突如訪れたメモリ不況から脱するために、Intelが微細配線の問題を解決し、無事に10nmプロセスを立ち上げることが待ち望まれる。

 Intelは2019年1月8日、「CES 2019」(米国ネバダ州ラスベガス)に先立って発表会を開催し、10nmで製造される次世代主力製品「Ice Lake」を今後数カ月の間に発表するとともに、量産出荷することを明らかにした模様である(笠原一輝『Intel、数カ月内に10nm製造の新CPU「Ice Lake」を量産出荷開始』、PC Watch、2019年1月8日)。

 同記事の最後には、「搭載製品は年末に登場する見通しで、例年のスケジュールだと、8月末にドイツで行われるIFAでPCメーカー各社から搭載製品が発表され、年末商戦に発売されるだろう」とある。

 Intelが上記の計画通りに量産できたとすると、PC用の10nmプロセッサが2019年後半、サーバ用の10nmプロセッサが2020年前半になると推測される。Intelの新CEOのRobert Swan氏が、“オオカミ少年”にならないことを願うのみだ。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧



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筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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