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» 2019年12月26日 11時30分 公開

江端さんのDIY奮闘記 介護地獄に安らぎを与える“自力救済的IT”の作り方(3):見張れ! ラズパイ 〜実家の親を熱中症から救え (4/7)

[江端智一,EE Times Japan]

「長生き」って、もう「おめでたいこと」ではないの……?

 ところで、認知症を調べているうちに、私は「嫌なこと」に気がついてしまいました。

 それは、認知症の問題の根っこが「"脳"の稼働期間」と「"肉体"の稼働期間」の非同期にあるのではないか、ということです。

 脳は、人間という制御システムの根幹を成す部位ですので、肉体が健常な状態であっても、脳が異常な状態になれば、肉体の制御を行うこともできなくなります。

 肉体の動作障害に対しては、各種のサポート器具(車椅子、眼鏡、補聴器、その他)があります。しかし、脳の動作障害に対しては、基本的にこれをサポートする方法(装置、医薬)がありません*)

*)認知症の進行を遅らせる医薬はあります。

 私が申し上げたいのは、年齢寿命に対して、脳の適正稼働期間が短過ぎるのではないか、ということであり ―― これは、逆から言えば、年齢寿命が長過ぎるのではないか、ということです。

 ここ数年、"健康寿命"という言葉がいろいろな所で頻出するようになりました。そこで、この傾向を、過去15年ほど調べてみました。

 "健康寿命"とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。

 平均寿命と健康寿命との差は、日常生活に制限のある「健康ではない期間」を意味します。いっそのこと「不健康寿命」と言い切れば簡単なのですが、そういう言葉を使えないのは、この私でも理解できますので、このコラムでも「平均寿命と健康寿命との差」という言葉を使います。

 さて次に、ちょっとショッキングなデータをお見せします(少なくとも、私は、かなりの衝撃を受けたデータでした)。"介護不要寿命"というもので、一言で言えば介護が必要となる年齢の平均値のデータです。

 "年齢寿命"は延びているのに、"介護不要寿命"は延びていないのです。グラフを見れば明らかですが、横に延びているだけです。

 これは、2010年までのデータであり、その後もいろいろなところからデータを見つけて、計算してみましたが、ここ10年ほどで顕著な改善があったとはいえませんでした。正直微々たるもので、寿命年齢に対して、2割程度の増加しかありませんでした。

 つまり、健康寿命は、年齢寿命から、ここ十数年間、4倍の勢いで引き離され続けているということです。「日本人の人生において、不健康な期間……もとい『平均寿命と健康寿命との差』が、増加し続けている」のです。

 ―― 長生きって、もう「おめでたいこと」ではなくなったのか?

と、ツッコミそうになりました。

 もっとも、介護には、前述したように、"要支援1"から"要介護5"まで7段階もあり、ひとくくりに語ることはできません。それに、介護を必要としていても、良い人生を送ることは十分に可能です。

 しかし、そうだとしても「健康であることは」は幸せな人生を生きるために、必要条件ではないかもしれませんが、でっかい十分条件ではあるでしょう。

 私は以前、江戸時代の生活(衛生、設備、医薬等から)、人生の終末期の「寝たきり」という期間が、「最大6カ月だった」という仮説を立てました(関連記事:「高齢者介護 〜医療の進歩の代償なのか」)。

 しかし、江戸時代までさかのぼらなくても、健康寿命という概念がなかった時代は、もっと最近のことだったのではないか、と思うようになってきました。

 そこで、「健康寿命は、介護不要寿命と線形に連動する」という仮説を立てて、健康寿命がゼロになる時点を、ざっくりと逆算してみました。

 ―― 約60年前

 「年齢寿命-健康寿命≒0」となるのが、1960年ごろという結果が出てきました。

 その当時の事を調べてみました。

  • 1962年に、(今では当たり前の)「訪問介護事業」が創立され、翌年「老人福祉法」が制定されています。
  • 1973年に、老人医療費無料化が実施されます(現在は1割負担に制度変更)。
  • 1978年にショートステイ事業が、1979年にデイサービス事業が開始されています。

 つまり、1960年までは、介護が社会問題として認識されていたという状況は存在していなかったのです ―― 江戸時代まで戻るまでもなく。

 1960年の女性の寿命年齢は70歳、男性は65歳 ―― つまり、1960年の時点では、日本人の多くは、認知症を発症する前に、生涯を全うしていたということであり ――

 「"脳"の稼働期間」と「"肉体"の稼働期間」は同期していた、ということです。

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