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走れ!ラズパイ 〜 迷走する自動車からあなたの親を救い出せ江端さんのDIY奮闘記 介護地獄に安らぎを与える“自力救済的IT”の作り方(最終回)(1/10 ページ)

認知症患者が、自動車を運転したままさまよい続ける、という問題は社会で大きくクローズアップされています。私も、父が存命だったころ、同じような出来事で人生最大級の恐怖を味わったことがあります。そこで今回、「ラズパイ」を自動車に積み込み、迷走する自動車から運転者(認知症患者)を救い出すためのシステムを構築してみました。

» 2020年03月30日 10時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]
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人材不足が最も深刻な分野の一つでありながら、効率化に役立つ(はずの)IT化が最も進まない介護の世界。私の実体験をベースに、介護ITの“闇”に迫りつつ、その中から一筋の光明ともなり得る、“安らぎ”を得るための手段について考えたいと思います。⇒連載バックナンバーはこちらから


「私にできること」は、もうないのか?

 本シリーズの第1回で、自動車を運転したまま自宅に帰れなくなった父を遠隔から救出するための、姉との共同作戦およびその全概要をお伝えました。

 その発生から身柄の確保に至る全記録を、 ―― 特に、私の人生最大級の恐怖(リアルタイムの高速道路への誤進入の確認)と、父が体験したであろう人生最大級の恐怖(発生から6時間以上の迷走のプロセス)を ―― できるかぎり詳細に記載したのです。

 そんな父も、今はもういません(2018年7月28日他界)。もう、私にできることは、何もないのです。


 ―― 私にできることは何もない? 本当に?


 私が第1回で記載したような事件(自動車に乗ったまま広域で行方不明になる)は現在、リアルな社会問題として、クローズアップされています。本人に自覚がなかったり、報告されていなかったりするだけで、同様の事件は相当数あり、捜索に要したコストも一回当たり10万円を要した、という報告もあります(参考)。

 無論、このような事件が事故に発展してしまえば、このコストは2桁以上跳ね上がりますが、さらに死傷者が出てしまうと、もはや金額に換えることすらできません。多くの人が、行政や立法による解決(免許有効期限の定年制の導入など)を望んでいることも知っていますが、これが「恐ろしく難しい」ことは、「誰がために「介護IT」はある?」に掲載した下の図で既に説明しました。

 これを「(自動車運転による)"徘徊"」と呼んでしまったら「私たちの負け」だ ――と思うのです(参考)。

 未来(老後)を、自分たちで閉ざしてしまう社会が、私たちの願いであるはずがありません。

 私たちの向かう未来は、高齢者を自宅や施設に閉じ込める社会 ―― アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のように、罪を犯していない者までも「潜在犯」として裁くような社会 ―― を、作ることではないはずです(参考:著者のブログ)。

 運悪く行方不明になってしまった人さえも、社会全体で見守り、保護し「いつでも、どこでも、誰もが、安心して外出できる国」―― これが、私たちが目指すべき社会の方向であるべきです。



 こんにちは、江端智一です。

 「介護IT」シリーズの第5回(最終回)です ―― というか、最終回にしなければ、このシリーズが終わりそうにない、という直感が(自分も、恐らくはEE Times Japan編集部にも)あり、今回、「力で捻じ伏せる最終回」となります。

 今回の前半は、今回のタイトル「走れ!ラズパイ」の通り、ラズパイを車に搭載しますが、単なるIoT(モノのインターネット)デバイスではなく、新しいコンセプト「移動サーバ(Movable Server)」を提唱します ―― つまり、デバイスを動かすという従来のIoTの考え方の真逆、「『サーバ本体』を動かす」の意義と、その具体例を詳細に説明します。

 そして、後半では、前回の宿題となっていた、「苦痛に苦しむ私を、誰が殺してくれるのか」というテーゼに対して、現在、私ができることとして、自作の「尊厳死宣誓書――リビング・ウィル」の最終版を公開します。

 さらに、本シリーズ第1回で掲げたテーゼ、「介護ITの究極の目的は『苦痛の定量化/見える化』であるとした上で、『「苦痛」が動かす社会の未来像』を明らかにする」についての私なりの検討結果をご報告致します。

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