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ビットコインの正体 〜電力と計算資源を消費するだけの“旗取りゲーム”踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(7)ブロックチェーン(1)(1/8 ページ)

今回から新しいシリーズとして「ブロックチェーン」を取り上げます。さて、このブロックチェーンを理解するために、まずは「ビットコイン」のお話から始めましょう。なぜビットコインか、というのは本文を読んでいただくとして、あらためてビットコインを調べ始めた私がまず発見したものは――「人間を支配するアルゴリズム」でした。

» 2020年10月30日 09時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「業界のトレンド」といわれる技術の名称は、“バズワード”になることが少なくありません。“M2M”“ユビキタス”“Web2.0”、そして“AI”。理解不能な技術が登場すると、それに“もっともらしい名前”を付けて分かったフリをするのです。このように作られた名前に世界は踊り、私たち技術者を翻弄した揚げ句、最後は無責任に捨て去りました――ひと言の謝罪もなく。今ここに、かつて「“AI”という技術は存在しない」と2年間叫び続けた著者が再び立ち上がります。あなたの「分かったフリ」を冷酷に問い詰め、糾弾するためです。⇒連載バックナンバー

不気味な仮想通貨「ビットコイン」

 以前、「「シュタインズ・ゲート」に「BEATLESS」、アニメのAIの実現性を本気で検証する」で紹介したアニメ「BEATLESS」の第23話に、異なる立場の超高度AIのインタフェース(人間とコミュニケーションする為の人型ロボット)がそれぞれのポリシーについて論争する場面が登場します(ちなみに、超高度AIのインタフェースは、なぜか全員が美少女です)。

 超高度AI「レイシア」は、

  • 人間が管理運用している政治システムは、人間から超高度AIに移管されるべきである
  • (その代替として)必要であれば、超高度AIは人間によって停止できることが証明されなければならない

と主張します。

 もう一方の超高度AI「アストライア」は、

  • 超高度AIは、従来通り、人間の社会課題解決の『下請けの計算機』に徹するべきである
  • 仮に、もはや社会秩序が、超高度AIなしで社会が成立しない「張子の虎(Paper Tiger)」であることが自明であったとしても

と主張します。

 ちなみに、私(江端)は、現在のノイマン型コンピュータだけでなく、非ノイマン型の量子コンピュータが登場しようとも「レイシアも、アストライアも、永久に登場してこない」と主張し続けています。

 AIとはコンピュータのアルゴリズムにすぎません。アルゴリズムは、アルゴリズム自身が規定した解空間の外には出られないからです。

 それ故、AI技術のアルゴリズムを「人間が利用する」ことがあるとしても、アルゴリズムが「人間が支配する」ことなどは、ありえないのです(参考:「Over the AI ――AIの向こう側に」)。

 ですから ――「人間を支配するアルゴリズム」を、まさか、こんなところから、こんな形で発見してしまうとは思いませんでした。正直、大驚愕です。

 別に人間の欲望を牛耳るでもなく、ディストピアを実現するでもない、本当に、ただのアルゴリズムです。

 具体的には ―― そのアルゴリズムには、貨幣を作り出す為だけに存在し、膨大な電力と計算リソースを無為に浪費し、その貨幣の根拠となる価値も不明で、いかなる意志(善意も悪意も)も何も見出すこともできず ―― 「アルゴリズムのルールだけで、私達を踊り狂わせる」不気味な仮想通貨を製造し、運用するアルゴリズム ―― ビットコインです。



 私はITの研究員として、長い間、この業界と長く関わってきました。その中で、分かってきたことの一つに、

―― 私たちは、特定の人間(特に権力サイド)に管理されないシステムが好きなようだ

ということがあります。

 まあ、誰だって、自分の考え方を把握されたり、位置情報を管理されたりしたら、嫌にきまっています。

 特に、我が国の国民は、太平洋戦争中の国民統制の歴史 ―― が、原因なのかどうかは、正直分かりませんが ―― もあって、本質的に「政府等の国家権力は、原則として信じない」とか「政治家のやることには、まずはケチをつけておく」をデフォルトとしているような気がします*)

*)「日本国政府は常に正しい」とか「政治家は常に正しいから従うべきである」という人がいたら、確かに私でも『なんか、この人、怖い』と思ってしまいます。

 ところで、インターネットは、誕生当時『権力によって管理されない、完全に自由な分散ネットワークシステム』が、最大のウリとして宣伝されていました(今や、そういう背景すら知らない人の方が、多いかもしれません)。

 実際、インターネットの伝送装置(ルーター)は、世界中で(推定)、毎日、数万台のオーダで、故障し続けているはずです*)。しかし、これまで一度も「世界中のインターネットが全面停止した」という話は聞いたことがありません。

*)江端家でWi-FiルーターやHubが壊れる頻度が1年に1台程度ですので、日本国内だけでも年間1億3000万台、一日35万台が故障しているはずです。ルーターに、その数倍程度の耐久年数があったとして、まあ、この程度にはなっているハズです(フェルミ推定)。

 一方で、戦争や内戦中の国では、政府が、インターネット接続が全くできないように制御していますし、日本の近隣国では、ある特定の言葉(例えば、”天安門事件”)では、検索ができないようにすることができています(海外のサーバにアクセスしても同じ)。

 つまり、インターネットのネットワークは、分散システムであるにもかかわらず、権力のコントロール下にあるのです(興味のある人は、”IXP”で検索してみてください) ―― 私に言わせれば、『権力によって管理されない、完全に自由な分散システム』というのは、幻想です*)

*)『もうさぁ、いっそのこと、権力のある装置で管理させた方が、ある牛丼屋のような「うまい、安い、早い」ネットワーク運用ができるんじゃない?』を、インターネットの国際会議(IETF)にぶちまけたものが、こちらです



 さて、ここ数年、『権力によって管理されない、完全に自由な通貨』なるものがもてはやされています。ビットコインです。

 私は、そういうフレーズを標榜(ひょうぼう)する技術の虚実と数十年も付き合ってきたこともあり、基本的には、そういうことを謳い上げるシステムには、関わらないようにしてきました―― というか、そもそも私は、『権力によって管理されない、完全に自由な通貨』なんぞ、最初から信じていないのです(たまたま、業務担当にならなかっただけ、という事情もありますが)。

 ただ、そう言いながらも、「きちんと調べることもなく、不信感を語る」というスタンスは、エンジニアとして許されない姿勢であり、後ろめたさも感じていました。

 今回のシリーズ「踊るバズワード 〜Behind the Buzzword」にて、この「ビットコイン」「ブロックチェーン」がテーマとして挙がってきました ―― 理由は明快「ビットコインが、何なのか分からない」にもかかわらず「騒がれ続けているから」 ―― いわゆる、典型的な「バズワード」だったからです。

 このようなEE Times Japan編集部の意向に加えて、私も、このビットコイン(と、ブロックチェーン)については、私も一度きちんと理解しておきたいと思っていました。今回、両者の思惑が一致して、本連載に至った訳です。

 なお、この連載でも、これまでの連載と同様に、「出たとこ勝負(江端の興味のままで)」で続けさせて頂くこととなりました(EE Times Japan編集部承認済み)。前回のシリーズ(量子コンピュータ)でも、結局、当初の計画通りの連載とならなかったからです ―― つまり、「考えるだけムダ」であると、編集部も私も(口には出さないけど)思っているからでしょう。

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