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» 2020年11月27日 11時30分 公開

踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(8)ブロックチェーン(2):ビットコインの運命 〜異常な価値上昇を求められる“半減期” (1/10)

「ブロックチェーン」を理解するために「ビットコイン」の解説を続けます。今回の前半はビットコインの“信用”について取り上げます。後半は、ビットコインに組み込まれている「半減期」という仕組みを解説します。これは、“旗取りゲーム”による賞金が、約4年単位で半分になること。ここに人間の力が介在する余地はなく、言ってみればビットコインの“逃れられない運命”なのです。

[江端智一,EE Times Japan]

「業界のトレンド」といわれる技術の名称は、“バズワード”になることが少なくありません。“M2M”“ユビキタス”“Web2.0”、そして“AI”。理解不能な技術が登場すると、それに“もっともらしい名前”を付けて分かったフリをするのです。このように作られた名前に世界は踊り、私たち技術者を翻弄した揚げ句、最後は無責任に捨て去りました――ひと言の謝罪もなく。今ここに、かつて「“AI”という技術は存在しない」と2年間叫び続けた著者が再び立ち上がります。あなたの「分かったフリ」を冷酷に問い詰め、糾弾するためです。⇒連載バックナンバー

紙幣の価値は、がっつり信じてるよね?

 「ねえ、マスター……私もう、世の中の何もかもが、信じられないわ……

 4杯目のボルドーのメルロのグラスを空けて、彼女はカウンターに俯しながら呟いた。しばらくして、顔だけを上げて、上目づかいに5杯目をマスターにねだるが、マスターはそんな彼女を無視して、グラスを拭き続ける。

 彼女は、溜息を一つつき、髪を上げながら、いつもより1枚だけ多い紙幣をカウンターに置いて、立ち上がった。最初の2〜3歩、足元がおぼつかない感じではあったが、それでも、背筋を伸ばして、ドアに向かって歩き出した。

―― と、ここまで読んで、私は思いました。

 「世の中の何もかもが、信じられない」と言っていたけど、彼女、「テーブルに置いた紙幣の価値」だけは、ガッツリ信じているよね?

と。

 バーのカウンター置かれた紙幣は、つまるところ「紙切れ」に過ぎませんが、それでも、バーのカウンターで出される、ボルドー産のメルロー、グラス数杯分の価値に相当する「信用」はあるのです。

 私たちは日常の中で、恋愛、友情、家族、仕事、いろいろなものを信用して生きていますが、多分、貨幣ほどは信用していないと思います ―― 私たちは、かなり高い頻度で、愛していた恋人に裏切られ、長年連れそってきた伴侶からは離婚を切り出され、人生をささげてきた会社からは辞令1枚で出向させられます。

 これに対して、貨幣に信用は、比較にならないほど高い ―― これは、貨幣の価値を守る者たちの「日々の闘い」と、そして、貨幣(日本円)の価値を何の疑いもなく信じ続ける私たちの「貨幣信仰」のコラボによる奇跡です。

 少なくとも、世の中の「全て」に絶望しカウンターで酔い潰れている女性が、その「全て」の「枠外」にしてしまうほど、通貨には絶対的な信用が化体しているのです。

「エバコイン」も作れそうだ

 私、この連載の開始時から、ビットコインのプログラム(ソースコード)を調べています。

 ビットコインは、国の定めた造幣局や印刷局で製造される訳ではありません。電気料金の安い中国(大陸)奥地のマイニング(発掘)工場でなくても、あなたのパソコンで作り出すことができますし、あなたが使うこともできます(「ビットコインの正体 〜電力と計算資源を消費するだけの“旗取りゲーム”」を参照)。

 ビットコインのソースコード(アルゴリズム)は100%無償で公開されています。これは、造幣局や印刷局で秘匿されている、超高度の造幣技術や印刷技術と同じようなモノが、100%余すところなく公開されていて、誰もが誰の許可も必要とすることなく、勝手にビットコインを作ることができる、ということです。

 このソースコードは簡単に入手できます。こちらのサイトからダウンロードできます。

 または、コマンドプロンプト(又は、適当なシェル)から

> git clone https://github.com/bitcoin/bitcoin.git

と入力するだけで、ソースコードが、自動的にあなたのPCにダウンロードされてきます。

 ソースコードは、”src”のディレクトリに格納されています。使用されているコンピュータ言語は、私の十八番であるC/C++が全体の75%、pythonが20%弱、ソースコードのフォルダ数72、ファイル数が1366、全部のソースコードは69,617ステップでした。

 私がこれまで、単体のプログラムとして、スクラッチから自作したソースコードは、最大10K(10,000)ステップ程度でしたので、このビットコインのソースコードを稼働させるだけなら、私でもなんとかなると思いました。(実際、先日、私は139,464ステップのコードの移植を完了したところです*)

*)ただし、改造した部分は、200ステップにも至りませんが(筆者のブログ)。


うん、これなら作れそうだな ―― 「エバコイン(EbaCoin)」


 これは、たとえではなく、完全に同一のビットコインを、私が作り出して、それを運用することが可能であるということです。それでは、ここでは、このビットコインと完全に同じ仕組みであるクローンである、江端が作成/運用/管理する通貨を「エバコイン」と呼ぶことにします。

 そして、私は嫁さんに尋ねてみました ―― 私がエバコインを作ったら、それ欲しい? と。

 なぜ、嫁さんは(そして、間違いなくあなたも)「エバコインなんかいらない」と即答したのか。そして、ビットコインとエバコインは何が違うのか? ―― 繰り返しますが、エバコインはビットコインのクローンです。送金に使えるし、コストも安く上げられるし、マイニングの仕組みも全く同じです。

 ビットコインは、2009年からの商用からのオペレーションのノウハウ(サービス窓口、ネットインタフェース、ノウハウ、トラブルシューティング)が蓄積されていますが、エバコインであったとしても、これからビットコインと同じような運用への投資と経験を重ねることによって、いずれは同じレベルにたどりつくことは(論理上)可能です。

 結論から言えば、ビットコインとエバコインの「通貨としての性質/性能の違い」ではなく、ビットコインという名称に化体したネームバリュー(ブランド)が違うからです。

 さらにダメ押しなのは、法定通貨との交換の可否でしょう。エバコインは、金融庁に対しての手続を行い、認可を得なければ、円やドルとの交換はできません(逆に言えば、それ相応の実績を作れば、できないことはないのです)。

 なるほど ―― ビットコインとエバコインの根本的な違いは、「ブランド」と「法定通貨との交換」の2つであると。これはもっともな話です。

 しかし、同時に、これは奇妙な話です。

 ビットコインが、それ自体に価値があるのであれば、法定通貨との交換などは「さまつな話」になるはずです。ビットコインがインターネットの世界で信用を得て、流通が可能であるなら、それだけで十分であるはずです。

 なのに、なぜ、ビットコインが、いつも法定通貨の価格との交換レートとともに表示される必要があるのでしょうか。

 現在、世界中で確認されている、ビットコインのような仮想通貨は、1000種以上もあります。これらの仮想通貨間での交換ができるのであれば、法定通貨に依拠しなくても、世界中どこにいっても不便のない世界共通通貨として通用するハズです。

 ―― ビットコインの暴落や高とうが、法定通貨との換金比率で語られること自体、おかしい

 他の仮想通貨とのレートか、あるいは現存しているインターネット上のサービス商品(例えば、Amazon Web Service(AWS)等)への値付け等で比較されるなら分かりますが……そんな風に考えてしまうのは、私だけなのでしょうか? ―― どうも、そうでもないようです(後述)。

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