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【付録】あの医師がもっと伝えておきたい“9個の補足”世界を「数字」で回してみよう(67)番外編(3/9 ページ)

» 2021年03月22日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

(付録C)「変異株の恐しさ」についての補稿

 実は、英語圏のニュースでは、変異株の話が非常に詳しく、かつ頻繁に話題になっています。

 「E484K」以前にも、いわゆるイギリス型として知られる「D614G」「A570D」などを含む変異が英語圏では2020年夏ころにそれなりに大きなニュースになったらしいのですが、私はon timeではまったく知りませんでしたし、日本ではほとんどニュースで聞かなかったような気がします。

 日本のマスコミが無視してきた(単純に英語ニュースを翻訳できなかった??)、変異株の概況をお話ししたいと思います。

 先に言います。絶望する必要は有りません。ただ、現実を可視化しただけです。表に書き出したものが、現在までに知られている変異の有名どころを列挙したものです*)

*)CoVariants国立感染症研究所などから抜粋

 この表をみて「そんなの常識だよ」という人と、「こんなにヤバイことになっていたのか」と驚愕する人、さて、どちらが多いでしょうか。マスコミ、仕事していますか?

 ニュースではイギリス型、ブラジル型、南アフリカ型などのように、「1つの地域型=1つの変異」とうっかり受け取ってしまいそうな感じで軽く報じられていますが、実際には1つの地域型に、(a)複数の変異が発生し、(b)世代ごとに蓄積しています。

 「そのグループに特徴的な共通の複数変異があること」を指紋のように利用して、系統を決定しているのです。もうそろそろ、「地域型」というくくりでの報道自体が限界かもしれません。

 各変異型が世界中に散らばって、そこで更に変異が重なり、それが別の地域で変異して……といった形で、実際には、世界中で同時多発的に変異が蓄積しています

 イギリスの変異型についてのレポートだけを見ても、変異型の系統樹が月に数回ペースで書き加えられる、そんなペースです(参考)。

 イギリスの変異型のレポートを紹介いたしましたが、その元になっているのが、こちらのHPです。このページの一番上のリンク(Latest global SARS-CoV-2 analysis)を選択すると、現在までのSARS-CoV-2の系統樹が表示されます。

 このページをいろいろ触っていると、SARS-CoV-2の変異の系統樹がビジュアルで見えることに感動すると共に、変化の速度とそれが世界へ広がるスピードに衝撃を受けます。

 現在、系統樹の分岐は45を超え、現在も増加中です。検査を行っている人間にとっては常識ですが、全ウイルスゲノム配列のシークエンシング(RNA配列を端から端まで全部読む解析)は全数検査ではありません。

 全数から見れば圧倒的少数のサンプリング検査であり、かつ、世界規模での地域差がめちゃくちゃ大きいです。実際には、瞬間的にはもっともっとたくさんの変異が出現しては消えて、生存に有利な一部が顕在化しているに過ぎません。

 サンプリングには科学的な国力が如実に反映されており、ヨーロッパ全体のシークエンシング数の5〜10%がイギリスのデータです。

 心強いことに、日本発、日本人名のデータも含まれています。残念ながら多いとは言えません。日本の科学的国力は確実に低下しています。実際問題として国と地域によってサンプリングの粗・密が存在するため、サンプリングが疎な地域で知らない間に変異が蓄積し、ウイルスの進化の順序をトレースできない可能性も指摘されていますが……これは仕方が無い部分があります(参考)。

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