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“ミリ波”で5Gの突破口を開く、商用化を加速するソフトウェア無線高周波帯域の開放が後押し

「5G」に欠かせない要素技術の1つが、超広帯域通信を実現できるミリ波帯の活用である。だが、これまでミリ波帯は、モバイルネットワークには不向きだと考えられてきたため、電波の挙動のデータが少ないのが実情だ。5Gの商用化が迫り、ミリ波通信のテスト環境をどれだけ短期間で構築できるかが課題になる中、ソフトウェア無線がその解となりそうだ。

» 2017年07月04日 10時00分 公開
[PR/EE Times]
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 現在、世界各国で実証実験が進められている次世代移動通信規格「5G」。商用化は2020年とされているが、それが前倒しされる可能性は大いにある。実際、米国のVerizonや韓国のKTなどの通信事業者は、2020年よりも早い時期にある程度の商用展開を開始すべく、「Verizon 5G」や「ピョンチャン5G」といった独自の5G規格を策定して実証実験を行っている。

 移動通信規格の標準化団体である3GPPも、5G導入への期待の高まりを受けて、着々と標準化を進めている。2018年6月には、5Gの最初の規格「Phase 1」の策定が完了する予定だ。

 ナショナルインスツルメンツ(NI) が2017年5月22〜25日に米国テキサス州オースチンで開催した「NIWeek 2017」は、5Gの開発が、実用化を見据えたものであることを感じさせるイベントとなった。その一例が、基調講演に登壇したAT&Tが見せたデモだ。

チャネルサウンディングのテスト時間が15分から150ミリ秒に

 AT&Tは、NIのミリ波対応ソフトウェア無線システムをベースに構築したチャネルサウンダーを使い、28GHz帯の電波の伝搬特性を測定するデモを披露した。

図1 「NIWeek 2017」の基調講演に登壇したAT&Tが行ったデモの様子

 AT&Tが開発したチャネルサウンダーは、NIが提供する、ミリ波帯の信号生成および解析に対応したソフトウェア無線システムである「ミリ波トランシーバシステム」 と「28GHz対応ミリ波ヘッド」を統合して構成したものだ。

 NIは2016年7月にミリ波トランシーバシステムを発表した。ミリ波トランシーバシステムは、ベースバンド信号生成・解析ならびにベースバンド・IF変換を司るPXIシステムと、IF・ミリ波変換を担うミリ波ヘッドで構成される。PXIシステム側には、WindowsベースのコントローラやFPGAボードが搭載され、ベースバンド信号生成・解析を用途に応じて自由にプログラムできるようになっている。

 このアーキテクチャこそが、ミリ波トランシーバシステムをソフトウェア無線の一種に数えることができる所以である。例えば、3GPPの5G NR(New Radio)の仕様に沿って物理層・MAC層のプログラムを実装すれば、ミリ波トランシーバシステムを5G NR準拠の基地局や端末として動作させることが可能だ。

図2 AT&Tのチャネルサウンダーの構成。ベースバンド信号からIF(中間周波数)にアップコンバート、またはIFからベースバンド信号にダウンコンバートする役割を担っているのがミリ波トランシーバシステムである

28GHz対応ミリ波ヘッドはWeek 2017に合わせて発表された新製品で、27.5GHz〜29.5GHzの周波数帯をカバーする。

 AT&Tは、このチャンネルサウンダーを使うことで、電波の伝搬特性を測定する時間が劇的に短くなったと語った。従来、ミリ波トランシーバシステム の代わりにスペクトラムアナライザーなどを使っていた時には15分かかっていた測定が、わずか150ミリ秒以内に完了したという。

5G向けとして割り当てられた28GHz帯

 AT&Tのデモは、28GHz帯を使っていることが大きなポイントになる。

 2016年7月に、FCC(米連邦通信委員会)が5Gネットワーク向けの周波数帯として28GHz帯を解放することを決定したからだ。つまりAT&Tは、商用の5Gで使われる可能性が最も高いと考えられる帯域の電波伝搬特性をテストしていることになる。

 NIは、この28GHz帯にいち早くターゲットを絞ったミリ波ヘッドを発表した。

図3 NI RFリサーチ/SDRマーケティングディレクター James Kimery氏

 NIでRFリサーチ/SDRマーケティングディレクターを務めるJames Kimery氏も、今回のNIWeekで発表された5G関連の製品の中で最も重要なのが、この28GHz帯対応ミリ波ヘッドだと強調している。「28GHz帯は、FCCが5Gネットワーク向けとして割り当てた以外にも、日本や韓国で開発が進められている帯域であり、とても重要だ」(Kimery氏)

 FCCは28GHzの他、37GHz、39GHzも5Gネットワーク向けとして割り当てる他、64GHz〜71GHz帯はライセンス不要の帯域 として割り当てると発表している。

 NIは、28GHz帯ミリ波ヘッドの他に、71GHz〜76GHz帯のミリ波ヘッドも 既に販売している。このミリ波ヘッドを使ってテストシステムを構築している場合、ミリ波ヘッドだけを28GHz対応に置き換えれば、インタフェースやソフトウェアを変更することなく、28GHz帯のテストシステムを構築できる。

 反対に、28GHz帯のテストシステムを、例えば73GHz帯に対応させたい時も、ミリ波ヘッドを交換するだけでよい。「箱型計測器では、テストしたい周波数帯を変更したい場合、計測器ごと買い替えなくてはならない。一方、NIのソフトウェア無線システムは、コードを書き直す必要もなく、ミリ波ヘッドを交換すれば済む。これは大きな利点だ」(Kimery氏)

図4 左=AT&Tが開発した28GHz帯対応チャンネルサウンダーのレシーバー。上部のドーム型のものはアンテナで、64個のアンテナを搭載している。ちなみにAT&Tの開発チームは、その形から「Porcupine(ヤマアラシ)」と呼んでいるそう/右=こちらがトランスミッター。赤枠内が、NIの新製品であるミリ波ヘッド

 超広帯域幅で通信できるミリ波の活用は、5Gにおける重要な要素技術の1つである。その一方で、直線性が強いミリ波帯の電波は建物などの遮蔽物にすぐに遮られる上に、減衰しやすいといった特徴があることから、これまでモバイルネットワークには不向きだとされてきた。そのため、ミリ波帯の電波の特性は十分に研究されてこなかった。

 だが、ミリ波帯の伝搬特性に対する理解が少しずつ進み、FCCが具体的な周波数帯を5G向けに割り当てた今、通信事業者や通信機器メーカーは、伝搬特性の評価を加速させていくだろう。一刻も早く商用化したいからだ。そうした中で、チャネルサウンダーの測定時間を15分から150ミリ秒に短縮できた意義は極めて大きい。NIのミリ波対応ソフトウェア無線を使って28GHz帯の電波伝搬特性の測定にいち早く着手したAT&Tは、間違いなく、5Gの商用化に向けて大きく歩みを進めたといえるだろう。

 Kimery氏は、「NIのミリ波対応ソフトウェア無線は、世界で初めてミリ波に対応したものだ。開発者は、5G NRとVerizon 5Gの仕様に基づいた実証実験が行えることで、実用化された時に近い、“本物”の結果を得られるようになる」と語る。

わずか1年半で5G試作機を開発したノキア

 Nokia Networksも、NIのソフトウェア無線プラットフォームを用いて、5G開発を加速したメーカーの1つである。NIWeek 2017で開催された5G関連のセミナー「5G: From Theory to Practice」では、そのNokia Networksの取り組みが紹介された。

 Nokia Networksは73GHz帯でデータを伝送する試作機を、NIのプラットフォームで構築した。送信機と受信機の他、FPGAを搭載した計測/制御ハードウェア「FlexRIO」をベースバンド処理部に用いたシステムだ。システムの仕様を柔軟に変更できるソフトウェア無線プラットフォームによって、Nokia Networksは、わずか1年半で最初の試作機を完成させたのである。

 米国ニューヨークで2014年4月に開催された「Brooklyn 5G Summit 2014」では、帯域幅1GHz、1ストリーム(1×1)、16QAMの変調方式で伝送するデモを行い、2.3Gビット/秒(Gbps)のピークレートを達成した。

 以降、毎年試作機をアップグレードし、2015年8月に開催されたNIWeekでは、帯域幅2GHz、2×2 MIMO、16QAMで10Gbpsの高速通信を基調講演で披露している。それから半年後、2016年2月にスペイン・バルセロナで開催された「MWC(Mobile World Congress) 2016」では、帯域幅2GHz、2×2 MIMO、64QAMで14.5Gbpsを達成した。

図5 NIWeek 2017で開催されたセミナー「5G: From Theory to Practice」で紹介された、Nokia Networksの5G試作機の開発事例。わずか2年以内に、通信速度が2.3Gbpsから14.5Gbpsにまで高速になった

 これだけのスピードを実現できた鍵は、やはりモジュール式の計測器とソフトウェア無線を採用しているNIのテストシステムアーキテクチャにある。「5G: From Theory to Practice」の講師を務めたNI Director of RF MarketingのJason White氏は、「5Gのテストシステムは、いかに素早く構築できるかが勝負になる」と強調した。

 上述したミリ波トランシーバシステムは、ミリ波ヘッドを交換するだけで即座に異なる周波数帯域に対応できる。Nokia Networksの試作機は、開発した通信アルゴリズムをFPGAに書き込めば、柔軟に仕様を変更してテストを行える。いずれも、わざわざ計測器を買い直したり、ソフトウェアをゼロから書いたりする必要がない。ハードウェアとソフトウェアを一度そろえれば、長くその資産を活用できることになる。

図6 「5G: From Theory to Practice」で紹介された、ミリ波用テストシステムアーキテクチャの一例。PXIベースのベースバンド処理システムは、200MHzから2GHzの帯域幅まで対応できる

 2018年6月に策定が完了する予定のPhase 1では、ミリ波が焦点になるが、Kimery氏が「ミリ波の課題は、5Gの課題そのもの」と言うほどミリ波の活用は難しい。ミリ波だけでなく、Massive MIMOやマルチRAT(Radio Access Technology)といった5Gの要素技術を全て含めて考えると、テストの組み合わせの数は無数にある。

図7 NIの5G向けテストプラットフォーム

 5Gのテスト手法は、標準化の完了とともにいずれ確立されるだろう。だがそれまでは、手探りでテストを行うしかない。そうした“不確かな状況の中”でこそ、柔軟にテストシステムを変更できるNIのプラットフォームは強みを発揮するはずだ。

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提供:日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年8月3日

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NIWeek2017 レポート

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