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“アナログの泥臭さ”が生きる低電圧出力が勝負どころに、設計力を底上げしタイムリーな製品投入を狙うトレックス・セミコンダクター 代表取締役社長 芝宮孝司氏

小型・低消費電力の電源ICに強みを持つトレックス・セミコンダクター。新しい中期経営計画の初年度となる2021年度は、主力製品のラインアップ拡充を図る他、資本提携したインドのアナログICメーカーとの協業による設計力の底上げと、半導体受託製造を手掛ける子会社フェニテックセミコンダクターの工場移管による高収益体制の確立を目指す。同社社長の芝宮孝司氏に、事業戦略を聞いた。

» 2021年01月13日 10時00分 公開
[PR/EE Times Japan]
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フェニテックは好調も、COVID-19の影響が響く

――2020年の事業を振り返ってください。特に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は各方面に大きな影響を与えましたが、その辺りはいかがでしたか。

芝宮孝司氏 2021年3月期の上半期(2020年4〜9月)でいうと、売上高は前期比10.4%増となった。2021年3月期通期の売上高としては、前期比7%増となる230億円と予想している。

 子会社のフェニテックセミコンダクター(以下、フェニテック)では産業機器と民生機器が大幅に回復し好調だった一方で、トレックス単体では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を早くから受け、特に国内の車載関連ビジネスが打撃を受けた。ただ、自動車市場はここ数カ月でようやく回復の兆しが見え始め、2020年度下期については少し持ち直すと考えている。産業機器分野についても、国内での売り上げが低迷したが中華圏では好調で、国内のマイナスを補うことができた。

 ただ、COVID-19の影響もマイナス面ばかりではなく、アプリケーションで見ると医療機器関連の売上高が前期比で約2.5倍になった。当社の小型で低消費電力の電源ICへのニーズがCOVID-19によって高まったと考えている。

底堅い需要、2021年は自動車と産業機器がけん引

――COVID-19や米中対立の影響で先行きが不透明というところもあると思いますが、2021年の市況はどのように見ていますか。

芝宮氏 厳しい状況の中でも、2020年4〜9月の業績はある程度のレベルは達成できたこともあり、パンデミックや地政学的な問題はありつつ需要は底堅いのではないか。さらに、国内のビジネス、特に車載関連が動き出しているので、自動車と産業機器がけん引していくとみている。

 アナログやパワーの製品は、クルマや産業機器に数多く使われる。そのため、トレックスとフェニテックが主体で手掛けているアナログ/パワーのビジネスは、長期的視点で見ても大きな成長が望める分野だと考えている。そのためには、いいモノを先行して開発し、市場に投入し続けていくことが重要だ。それができれば業績も堅調に伸びていくと確信している。

1.0V以下の低電圧出力が勝負どころに

――そういった意味で、今後も注力していきたい、トレックスらしい強みを持つ製品にはどんなものがありますか。

芝宮氏 やはり主体となるのは小型で低消費電力の電源ICだ。その中でも、特にコイル一体型DC/DCコンバーター「micro DC/DC」は当社の強みを生かした製品であり、2020年のような厳しい状況の中でも堅調な売り上げを示している。今後もコイルメーカーと協業しながらラインアップの拡充を図っていく。

 2020年1月には、消費電流が200nAに抑えた降圧同期整流DC-DCコンバーター「XC9276シリーズ」を発売した。動作モードに応じて動作電圧を切り替える昨今のマイコン(MCU)などに対応すべく、出力電圧を2.8Vと1.8Vに切り替えられるようになっている。

「XC9276シリーズ」は、システムの消費電力を抑えられるよう、出力電圧を切り替えられる機能を備えている

 半導体ICの製造プロセスの微細化とともに、こうした低電圧への要求が非常に高くなっており、われわれもそれを見据えて開発を進めている。出力電圧1.0V以下というのは、“アナログ技術の泥臭さ”がどんどん生きてくる領域だ。例えば0.5Vといった低い電圧をきっちり出力できる回路技術というのは、そうたやすく実現できるものではない。そこに、トレックスの勝負どころがあるのではないか。低電圧出力の電源ICはセンサーなどに適しており、今後、5G(第5世代移動通信)の本格的な普及に伴いIoT(モノのインターネット)機器が増加していけば、われわれの製品が生きるアプリケーションも増えていくと期待している。

 同時に、今後車載や産業機器でニーズが高まるとみられる、高耐圧/大電流の電源ICの開発も進めて製品ラインアップを強化していく方針だ。

フェニテックの工場移管で高収益体制に

――パワー半導体事業についてはいかがでしょうか。2020年6月には、酸化ガリウムパワーデバイスを手掛けるノベルクリスタルテクノロジーとの資本提携を発表しました。

芝宮氏 もともとフェニテックで化合物半導体の受託も行っているが、今回、トレックスがノベルクリスタルテクノロジーと資本提携したことで、酸化ガリウムパワーデバイスの企画から開発、製造を行えるようになると見込んでいる。既に開発は進めており、まさにこれから、具体的に事業を組み上げていくところだ。

 フェニテックについては、SiC、GaN、酸化ガリウムのパワーデバイスの受託製造を手掛ける、国内の6インチウエハー工場として、付加価値を高めていければと考えている。2020年9月にサンプル出荷を始めたSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)は650V定格だが、11月には1200V定格品のサンプル出荷も開始した。SBDだけでなく、SiC-MOSFETについても顧客からの要求があるので、開発を進めたい。そうなればSiCパワーデバイスのラインアップもそろう。SiCパワーデバイス市場はまだ立ち上がったばかりなので、十分他社に追い付けると考えている。

 もともとIGBTやSiパワーMOSFETを手掛けているフェニテックは、多くの顧客からのさまざまな要求に応えてきたので、ユニークなプロセスでユニークな製品を作る技術に長けている。そこは次世代パワーデバイスの開発、製造において大きな強みになるはずだ。

 現状、小信号のディスクリートなどの製造も多いフェニテックだが、できるだけ早く事業の主軸をパワーデバイスに移したいと考えている。

 トレックスとしては、パッケージングやモジュール化によって、SiCパワーデバイスや酸化ガリウムパワーデバイスの付加価値を高める戦略をとる。

――フェニテックでは、岡山県井原市の本社工場を、同じく井原市にある第一工場の新棟(Fab4)に統合する計画ですが、進捗について教えてください。

芝宮氏 ここは、COVID-19の影響を大きく受けたところだ。本来の計画では、Fab4で製造したチップを顧客に提供して評価を進め、2020年度中に統合が完了するはずだった。だが、COVID-19の影響でチップの評価が滞り、顧客承認手続きに遅れが発生している。現在も、工場移管を進めつつ、評価を行っているさなかだが、評価は2021年3月末までにはどうにか完了するメドが立った。

 チップ製造の需要は多く、われわれとしては、より効率よく製造できる新しい設備を備えた新工場に少しでも早く移管したい。新工場での生産が増加すれば生産性が向上し、高収益体制が整うだろう。今後は利益増が見込めると考えている。

フェニテックでは、工場移管で高収益体制を目指す

インドのアナログ設計力を生かす

――インドのCirel Systems(以下、Cirel)とも2019年に資本提携をしました。こちらは今後どのように技術協力を進めていくのですか。

芝宮氏 まずは、代理店契約を結びCirelの製品の販売をワールドワイドで開始する。Cirelは、I2Cインタフェースとバッテリー残量ゲージを統合した低電力のバッテリー管理ICや、スタイラスペン用の、センサーコントローラーと電力管理を統合したICなど優れたミックスドシグナルICの製品を持っている。だが営業や販売のリソースは少ないので、トレックスの販路を活用し、これらの製品を販売していく。

 それと並行して、Cirelが強みを持つミックスドシグナルICの企画や開発を共同で進めていく計画だ。アナログIC、電源ICは、今後も需要が高まる市場であり、優れた製品をタイムリーに市場に投入し続けるための開発力、設計力が欠かせない。それにもかかわらず、設計者が少ないという大きな課題を抱えているのが現状だ。Cirelとの資本提携は、それを打破することが目的。インドはアナログICの設計者がどんどん育っていて、アナログICを手掛けるスピンアウトも増えている。インドの設計力を活用し、製品ラインアップを拡充してタイムリーな市場投入を狙う。

 将来的にはCirelにトレックスの開発部隊を設置するなど、さまざまな方向性での協業を目指してCirelと話し合いを進めている。トレックスで製品を企画し、Cirelが設計を担当するというケースもあるだろう。COVID-19の感染が拡大する前には、Cirelの技術者に日本に来てもらい、われわれの設計思想や設計方法を学んでもらう研修も行っていた。現在、複数の製品を開発中で、2021年内にもトレックスの新製品として発表できそうなものもある。

Cirelと提携することで、アナログICの設計力の底上げを狙う

中期計画は3カ年ではなく、5カ年に

――2020年度は、2018年度から始めた3カ年中期計画の最終年度でした。2021年度からの中期計画についてはどのようにお考えですか。

芝宮氏 2021年度からは、3カ年ではなく5カ年の中期経営計画を立てたいと考えている。3カ年だと、既存の製品をベースにした計画が主軸となってしまい、製品開発を実際のビジネスにつなげていくことが難しい。そのため、もう少し長期的な期間での計画が必要だと感じた。

 中期計画を5カ年に延ばすことを見据えて、2020年4月に大きな組織変更も行った。まずは、従来開発部門の中に設置していた企画部門を独立させた。市場や顧客のニーズを、よりくみ取るためだ。これによって、より多くの製品を短期間で開発することに集中できる体制を整えた。生産部門では、生産技術と品質保証を1つの本部として設置し、コストと品質のバランスをより的確に取れるようにしている。営業も、国内担当と海外担当に分けた。

 5カ年になれば、フェニテックとのシナジーも、より業績に反映しやすい形で実現できると考えている。


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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年2月12日

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